「ロシアの地政学的地位と体制の安定性の両面において危険な計算」

 公式データによると、21〜24年ロシアの国内総生産(GDP)は7.1%成長し、家計所得は24.8%増とされる。しかし22〜24年のインフレ率はそれぞれ25%、15%、20.7%だったと推計され、実際にはロシアのGDPは1.5%縮小、実質家計所得も5.3%低下したとみられる。

 軍事支出増加は国民福祉基金の流動資産により賄われた。22年5月に1480億ドルあった流動資産は3年間の戦争を通じ1130億ドルが使われた。25年末時点でロシア経済は凍結された資産へのアクセス不能、原油価格の下落、軍事支出の激増という組み合わせに直面している。

 その結果、ロシア経済の戦争遂行能力は22年当時よりも大幅に低下している。民生経済と軍事経済間の緊張はいずれプーチン体制の「レジーム・ダイナミクス」に影響を及ぼし、専制的な秩序を保つためエリート層への腐敗まみれの資金を流し込み続けるのが難しくなる。

「プーチンは政治的に長期戦を覚悟し、ウクライナを支える西側の連合が時間の経過とともに弱まりロシアに有利になることを期待している。しかし、それはロシアの地政学的地位と体制の安定性の両面において危険な計算であることを意味している」と報告書は結論づけている。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。