それでいて中国共産党の八路軍などと日本軍の衝突は出て来なかった。朝ドラであることを考慮したからだろう。視聴者の中には兵舎内で古兵が新兵に行っていたビンタを嫌がった人もいたほどである。

戦後のシーンにも込め続けた「戦争ほど理不尽なものはない」というメッセージ

 だが、戦争の異常性や愚かさ、むごたらしさは十分に伝わってきた。中園氏の脚本が秀でていた。敗戦が迫りつつあった1945(昭20)年、嵩と同じ部隊の今野康太(桜井健人)が飢えに耐えかね、中国人老女の家に押し入り、分け与えられたゆで卵を食べた。老女に銃をチラつかせたから、脅し取ったと言ったほうがいいかも知れない。

 当初は康太を止めようとしていた班長の神野万蔵(奥野瑛太)も卵を食べた。嵩も。あまりに飢えていたことから、殻をむく余裕がなく、そのままかぶりついた。老女に銃を見せたことを含め、こんなことは誰も決してやりたくないはず。人間の尊厳に関わる。それでもやってしまうのが戦争の異常性なのだろう。

 同じ1945年の第58回から第59回、嵩の幼なじみで別部隊に所属する田川岩男(濱尾ノリタカ)が、親しくしていた地元の少年リン・シュエリャン(渋谷そらじ)に射殺された。逃げていくリンと地面にうずくまる岩男。周囲がリンを追い掛けようとすると、岩男は「待て…違うんだ」と止め、「あの子は…関係ありません」と庇った。岩男は死の間際で人間の尊厳を守ろうとしたのだろう。親しかった子供を殺させるわけにはいかない。

 リンにとって岩男は親の仇だった。中国にも「親の仇は討て」という言い伝えがあるから、リンは自分の使命であるかのように岩男を殺した。ただし、リンの胸は晴れなかった。使命を離れると、岩男が好きだったからだ。

 1975(昭50)年になっていた第122回、岩男の息子・田川和明(濱尾ノリタカ・2役)が嵩と元上官の八木信之介(妻夫木聡)たちを訪ねてきた。キューリオ代表の八木は、嵩の仕事を後押ししている。

 和明は父・岩男が亡くなった理由を知りたがっていた。「父はなぜ死んだんですか?」。当然の思いだろう。嵩と八木は岩男とリンの関係や殺害経緯を話すが、それでも和明にはなぜ父親が殺されなくてはならなかったのかが分からない。嵩は「それが戦争なんだよ」と静かに説く。嵩がこの言葉を継ぐとすれば、「だから戦争はやっちゃあいけない」だったのではないか。