2025年5月23日、棋王就位式、羽生善治会長(左)より就位状を受け取る藤井聡太 写真/スポーツ報知/アフロ
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(田丸 昇:棋士)

伊藤匠叡王が王座を奪取

 今年の将棋界は、藤井聡太竜王・名人(王位・棋聖・棋王・王将を合わせて六冠=23)を中心に回り、タイトル戦で順調に勝ち続けた。2025年の動きを振り返ってみる。

 2023年10月に藤井七冠は王座のタイトルを奪取し、前人未到の「八冠制覇」を達成した。絶対王者の時代が長く続くと思われた。

 しかし24年6月、叡王戦五番勝負で藤井叡王は同年齢の挑戦者の伊藤匠七段(当時21)に2勝3敗で敗れ、八冠の一角が崩れた。タイトル独占は254日で終わった。

 藤井は「タイトル戦で敗れるのは、時間の問題と思っていました。あまり気にせず今後も頑張りたい」と語った。実際にその言葉どおり、以降の名人戦、竜王戦などのタイトル戦で防衛を続けた。

 今年の王座戦五番勝負は、藤井王座に伊藤匠叡王が挑戦した。昨年の叡王戦以来の対戦となった。勝負は2勝2敗と伯仲し、最終局に持ち込まれた。

 その第5局の序盤で、伊藤は意表をつく研究の一手でリードした。そして終盤で藤井が狙う逆転技を冷静にかわし、最後は相手玉を即詰みに討ち取って勝った。「伊藤強し」と思わせる会心の内容だった。

 伊藤は王座を奪取し、初の二冠となった。

 藤井六冠は終局後に、「全体的に終盤で競り負ける形になってしまいました」と敗因を語った。

 伊藤新王座は記者会見で、「苦しい形勢が続いた第2局を拾えたのが大きかったです(1勝1敗の五分に)。それから内容を上げることができました。藤井さんをライバル(記者の質問に対して)と呼ばれるのは光栄です。ほかのタイトル戦でも藤井さんに挑戦したい」と語った。