来年の棋界勢力図

 来年の棋界勢力図は、藤井六冠と伊藤二冠が中心になると思われる。しかし「二強」とはまだいえない。伊藤が藤井を破った叡王戦と王座戦は一日制五番勝負(持ち時間は各4・5時間)。竜王戦、名人戦、王位戦、王将戦は二日制七番勝負(持ち時間は各8・9時間)。藤井が圧倒的に強いその二日制で伊藤が破ってこそ、真のライバルといえるだろう。

 ちなみに藤井と伊藤は「馬年」生まれで、来年は年男に当たる。

 永瀬拓矢九段(33)は今年、二日制の王将戦、名人戦、王位戦で藤井に挑戦し、いずれも敗退した。ただ王位戦では3連敗から2連勝で巻き返して意地を見せた。来年1月から始まる王将戦で再挑戦し、「角換わり将棋は真剣(日本刀)」と例えた戦型を藤井に突きつけるだろう。

 今年のタイトル戦では、増田康宏八段(28)が棋王戦五番勝負、杉本和陽六段(34)が棋聖戦五番勝負で初挑戦し、いずれも藤井に3連敗して敗退した。

 杉本六段は故・米長邦雄永世棋聖の最後の弟子で、私こと田丸九段の甥弟子に当たる。米長はなかなか棋士になれない杉本をとても心配したという。米長の死去から数年後、杉本が四段に昇段して米長夫人に挨拶に伺うと、生前に用意したお祝いの駒を贈られた。杉本は感極まって涙をこぼした。

 なお藤井との棋聖戦第1局では、杉本は米長家から譲り受けた和服を着用し、「師匠のパワーを少しでも感じたい」と語って臨んだ。

 その棋聖戦(主催・産経新聞社)は、前期から優勝賞金が4000万円に大幅増額された(ほかに特別賞として1000万円)。これは最高棋戦である竜王戦(主催・読売新聞社)の優勝賞金の4400万円に次ぐ高額だ。

 棋聖戦を特別協賛するヒューリック(不動産会社)の西浦三郎会長は熱心な将棋愛好家。今年4月に記者会見で「今の明るい話題は、大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手と、将棋棋士の藤井聡太七冠だが、2人は収入面で差がありすぎる。将棋界の発展のため、次の若い世代を育てるために、賞金増額を考えた」と、その理由を語った。