K字型経済の「下層」はトランプ氏の支持基盤と重なる

 その場しのぎの政策ではトランプ氏がK字型経済から逃れられない理由が3つある。まず物価高の責任がジョー・バイデン前米大統領からトランプ氏に移りつつある。直近の世論調査では「インフレの責任はトランプ氏にある」と見る声が「バイデン氏のせい」との回答を上回る。

 次にK字型経済の「下層」はトランプ氏を支えてきた基盤と重なる。ラストベルト(さびついた工業地帯)の白人肉体労働者、地方の年金生活者・退職者。こうした層は株価上昇やAIブームを横目に自分の賃金と生活はどうしてこんなに苦しいのかと感じている。

ラストベルト地帯、米東部ペンシルベニア州の炭鉱に星条旗がたなびいている=2020年10月撮影(写真:共同通信社)

 こうした感覚こそが、K字型経済の『底辺』にいる人々の実感だ。

 これを無視して「インフレはほぼゼロ」「物価は下がっている」と言い張れば、バイデン氏が陥った「現実否認」の失敗と同じ轍を踏むリスクが高まる。移民抑制による人手不足と高金利の構造要因は関税収入の一部を還元しても残る。

 現在の米国は成長率、株価は好調、AI投資は活況だが、インフレは3%で粘着し、食品価格の上昇は低中所得者層を痛めつける。失業率はじわりと上昇、消費者マインドはコロナ初期並みの弱さ。K字型経済の罠から逃れようとしても、トランプ氏はすでにがんじがらめになっている。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。