疑問③:なぜ警察官が現場に臨場していたのか?
西岡:警察は最初、今回の措置は役所の判断だと説明していました。しかし江東区議会でこの件について質問が出た際には、住宅の玄関を破壊して侵入したのは警察の判断だったと区の担当者は答弁しています。
私が警察に問い合わせたところ、「警察法などの法令に基づいて適切に対処している」という回答がありました。ただ、「具体的にどの条文に基づいて侵入できたのか」ということについては答えを拒否しており、今回のような行為が何の法律に基づくものなのか明確に説明していません。
益田:厚労省のマニュアルでも、鍵を壊してまで家の中に入ることは認められていないということでした。
西岡:その通りです。高齢者虐待防止法において鍵を破壊して立ち入り調査をすることは、法律的に認められていません。
虐待防止に関する3つの法律、すなわち「障害者虐待防止法」「児童虐待防止法」「高齢者虐待防止法」のうち、唯一自宅に侵入して立ち入り調査ができる権限が法律の条文で明記されているのは「児童虐待防止法」だけで、裁判所の許可状を取ることが義務付けられています。一方で「高齢者虐待防止法」についてはそうした記述はありませんので、住宅侵入は基本的にできないというのが一般的な理解です。
益田:法律や行政のルールに従った運用がされていないということですか。
西岡:さらに問題なのは、警察や検察の冤罪事件であっても、被疑者には弁護士を付ける権利や家族との面会権利があります。しかし、高齢者虐待防止法により一度面会制限がかかってしまうと、一切の連絡が取れなくなり、居場所も不明になります。もちろん弁護士をつけることもできません。
こうした場合、亡くなるまで家族に会えない状態が続いても法律上は問題ない仕組みになっています。これは法律そのものに大きな欠陥があると言わざるを得ません。