疑問①:家族による虐待はあったのか?

益田:今回の事件が起きた背景を改めて整理していきます。1つ目の疑問、「家族による虐待があったのではないか」という点について、西岡さんはどう考えますか。

西岡:虐待を認定するためには、役所の担当職員と専門職、地域包括支援センターなど、和子さんの介護に関わる方々が集まって会議を開かなければいけません。一般的に「コアメンバー会議」と呼ばれるものです。

 その会議で虐待の事実が明らかになってはじめて、虐待の判断ができるわけです。厚労省のマニュアルにも会議の開催が必要だと書かれています。しかし、和子さんが連れ去られた後にご家族が情報公開請求をしたところ、そうした記録は一切存在しませんでした。

益田:成年後見人についての話もありましたが、これはいつ、誰が申し立てをして、いつごろ後見人がついたのですか。

西岡:記録によれば、今年2月に成年後見人の申し立てがなされています。成年後見人の申し立ては原則として家族がすることになっているのですが、今回は江東区長の権限で申し立てがされています。

 本来、区長が申し立てをするのは家族がいない場合や遠方に住んでいて後見人になる意思がない場合などに限られています。ところが、和子さんには娘さんもお孫さんもいらっしゃるのに、そうした方々に意思確認もせず区長が申し立てをしたのです。

益田:「虐待の事実があった」などと申立書に記載はあったのでしょうか。

西岡:後見人選任後に家族が家庭裁判所に情報公開請求したところ、江東区役所が作成した文書には家族の暴言や虐待の記載は全くありませんでした。

益田:そもそも、虐待という場合、同居している家族からの虐待が想定されることが多いかと思いますが、和子さんは一人暮らしですよね。

西岡:和子さんは江東区内のアパートで一人暮らしをしていました。虐待には身体的虐待や暴言による心理的虐待、性的虐待、ネグレクト、経済的虐待の5つの類型がありますが、同居している家族でないとほとんど虐待認定はされません。

 ただ、経済的虐待などは別居でも認定される可能性がありますが、今回の場合はそもそも通帳預かりサービスで通帳はすべて社協に預けていたため、家族が財産に手を付けられる状況ではありません。そうした点からも、家族による虐待が存在したとは考えにくいと思います。