生きづらさを招く「未完了の感情」とは
──「感情が未完了のまま残ることが、生きづらさの一因になる」と説明しています。
上谷:感情は、本来その場で適切に表現されれば「完了」します。悲しい、嬉しいといった感情を自分で自覚し、表出する。その積み重ねによって感情は体験として完了し、完結できます。
けれども、子どもの頃に「泣くな」「はしゃぐな」と感情表現を抑え込まれて育った場合、感情は完了せず「未完了」として身体に残ってしまいます。「泣かない自分は強い」「感情を抑えられるのが良い」という価値観まで同時に刷り込まれることもあります。
すると、自由に泣いている人や喜んでいる人、自分の願望を素直に言う人に出会ったときに「なんてわがままな人なんだ」と感じてしまうようになります。言語化はできなくても、そういう人に対して、なんだかもやもやしたり、イライラしたりする感覚が生まれてきます。
感情が未完了なまま大人になると、人間関係に困難さを抱える場面が多くなってしまう可能性があるのです。
──「自分は頑張っているのに、あの人は手を抜いている」など、一方的に決めつけて、不公平感を抱くようなことはありますね。
上谷:それはおそらく、過去に、何らかの感情を未完了にしたままだからだと思います。
そもそも、イライラや腹立たしさといった「怒り」の感情を健全に出せる人はあまり多くないと感じています。それは、やはり子どもの頃に親から言われた「怒ってはいけません」「泣かないで我慢しなさい」というような言葉が身体と心に残っているからかもしれません。
健全に怒りを表現する方法
──健全に怒りを表現するとはどのようなことでしょうか。
上谷:怒りの感情をそのまま爆発させることと、怒りを表現することは全く違います。
怒りをそのまま爆発させてしまうと、人間関係に問題が生じます。重要なのは、まず「今、自分が何に対して怒っているのか」をできるだけ正確に把握し、冷静な言葉で伝えることです。「私は今、○○に対して怒りを感じている」という形で言語化できれば、それは健全な感情表現になります。