健全なバウンダリーを引くための2ステップ
上谷:良い、悪いという具合に考えてしまうと、「健全なバウンダリーを持てない自分は駄目な人間だ」という思い込みを引き起こしかねません。ですので、不健全なバウンダリーを持つ自分も、「ありのままの自分」として受け入れてあげてください。
──バウンダリーを健全に、柔軟に引くための2ステップについて、書籍の中で解説していました。
上谷:健全なバウンダリーを引くための第一歩は、「バウンダリーという概念がある」と知ること、そして「今の自分はバウンダリーを引くのが苦手かもしれない」と認めることです。これは2ステップの前段階です。
ステップ1は、自分が大切にしたいもの、つまり心地よいこと、好きなこと、守りたい時間や空間を明確にすることです。何をバウンダリーの内側に置きたいのかが分かると、どこに線を引くべきかが見えてきます。
ステップ2は、実際の行動に落とし込むことです。たとえば、働く頻度を調整する、気が進まないときや体調が悪い日は飲み会を断る、違和感のあるコミュニティから距離を置くなど。こうした選択や行動が、自分の時間と感情を守るバウンダリーを育てることにつながります。
良し悪しで判断しないことの大切さ
──「心を病めない人」にメッセージをお願いします。
上谷:心を病むことがいいというわけではありません。「心を病まないとダメ」としてしまうと、私が伝えたかったことの趣旨から外れてしまいます。
一般に言う「心を病んだ」というような状態や、生きづらさを感じる状態になったときでも、それは生きるための力だということを伝えたくて、今回『心を病む力』というタイトルの書籍を上梓しました。

病んでも、病まなくても、どちらでも良いというのが前提です。ただ、今現在、病んでいないように感じている人でも、今後、心を病んでしまう可能性もあります。そんなときに、参考にしていただきたいと思っています。
また、私たちは生きていくために、社会や環境に適応しなければなりません。とは言え、過剰適応(※)は生きづらさを招きます。
※自分の本心・欲求・限界を押し殺し、周囲の期待や環境に過剰に合わせすぎる状態
ただ、過剰適応して苦しんでいる自分も「ありのままの自分」です。そんな自分を認めて、いたわってあげてください。とにかく、自分自身を「良い」「悪い」で判断しないこと。それが、「生きづらさ」から抜け出す第一歩だと思います。
上谷 実礼(うえたに・みれい)
産業医・公認心理師
千葉大学医学部医学科卒業。博士(医学)。労働衛生コンサルタント(保健衛生)。千葉大学大学院非常勤講師。生活習慣・生き方と健康との関係に興味を持ち、社会医学系研究室で研究・教育に従事したのち、産業医として独立。のべ1万人以上の面談・カウンセリング実績。アドラー心理学・ゲシュタルト療法・ポリヴェーガル理論が専門。
関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。
