市場規模は1500億ドルへ

 世界全体で見ると、AI半導体市場は今後も拡大の一途をたどるとされています。米国の調査会社ガートナーは、2027年までにAI向け半導体の市場規模が年間約1500億ドルに達すると予測しています。 

 一方で、供給が逼迫し続けるGPUに過度に依存することは、企業のAI戦略にとってリスクにもなります。

 そのため、各社はNPUや専用チップの開発を強化し、AI向け処理の分散化が進んでいるのです。

 日本企業も日立製作所や富士通が独自のAIアクセラレータを研究し、エッジAI分野ではソニーがイメージセンサーとAIを組み合わせた製品を展開しています。 

 日本が得意とする組込み技術とAI専用チップの組み合わせは、十分に世界で戦える領域でしょう。

 経営者が今知るべき要点は、AIの進化によって企業インフラがCPU中心からマルチプロセッサー時代に移行したという現実です。

 私がIT事業を始めた1980年代は、すべての計算はCPUが担っていました。それが今では、用途に応じて最適な計算装置を使い分けることが当たり前になっています。

 これはまるで、社内の役職を細分化し、スペシャリストを適材適所で活かす現代の組織に似ているのです。

 生成AIの運用では、GPUの調達競争だけに目を奪われがちですが、エッジ側でのNPU活用やクラウドでのTPU利用も選択肢として検討すべきではないでしょうか。

 最後に一つ、最近講演でよく聞かれる質問があります。

 AIに詳しくない経営者は、どのプロセッサーが勝つのかを知りたがるのですが、私は勝ち負けの話ではないと答えています。

 AI活用は、企業がどのような未来を描くかによって最適な道が変わるからです。

 CPUは安定した土台であり続け、GPUは生成AIの主力であり、TPUは巨大なクラウドAIを支え、NPUは現場にAIを届ける。それぞれが役割を持ち、共存しながら進化していきます。

 経営者がすべきことは、半導体を語ることではなく、自社にとってAIがどのような価値を生むのかを知ることではないでしょうか。

 そのために今回の記事が少しでも判断材料になれば幸いです。AI時代の設備投資は、単なるモノの選択ではなく、事業構造の選択そのものになります。

 自社の未来像を描き、そのために必要な計算装置を選び取る――。その戦略眼こそが、AI時代の経営者に求められているのだと思います。