スマホや金融機関で存在感高めるNPU

 NPUは近年、スマートフォンやエッジデバイスで存在感を高めています。アップルの「iPhone」に搭載されているニューラルエンジンや、「Google Pixel」に搭載される「Tensorプロセッサ」などがその代表です。

 NPUはAI計算専用に設計されており、本来GPUが得意とする行列演算をさらに効率化する構造を持っています。

 製造業の経営に例えるなら、特定業務に特化した熟練工のような存在です。

 サーバールームで巨大モデルを訓練するのではなく、手元の端末で画像分類や音声認識を高速処理する。そのため、クラウド依存を軽減し、セキュリティや電力効率にも寄与します。

 例えば、金融機関では顧客データをクラウドに上げずに端末内で解析するニーズが高まっており、NPU搭載デバイスの重要性が急速に増しています。

 こうした違いを理解すると、企業がどこに投資すべきかという判断がより明確になります。

 巨大なモデルを自社で訓練する必要があるのか、推論だけ高速化したいのか、あるいはエッジ(手元)側での処理を重視するのか。

 目的によって適したプロセッサーは大きく異なります。

 最近、地方の製造業者の経営者から、GPUを買えばAI企業になれるのかと聞かれたことがありました。私は、工具を買っても大工にはなれませんと答えました。

 重要なのは、どのような事業目的でAIを使うかの設計です。

 GPUを導入しても、使いこなす人材やデータ基盤がなければ、宝の持ち腐れになってしまいます。

 むしろ中小企業では、小さなNPU搭載のエッジデバイスを使って、現場の異常検知や熟練工の技能継承にAIを活用する方が投資対効果は高い場面が多いのです。