いま「自動運転・無人運転」が注目される理由
前述したように、鉄道における自動運転・無人運転の歴史は長く、営業運転の開始から約40年の歴史があるため、決して新しい技術ではない。
にもかかわらず、近年になって無人運転が注目されるようになった理由は、言うまでもなく多くの鉄道事業者・路線がいまだ自動運転・無人運転を実現できていないからだ。
自動運転と無人運転は同じ意味のように受け止められることが多いが、その意味は微妙に異なる。
神戸新交通ポートアイランド線、南港ポートタウン線、ゆりかもめ東京臨海新交通臨海線、日暮里・舎人ライナーなどは完全に運転士・車掌といった乗務員が添乗しない無人運転を実現している。
一方、JR各社や大手私鉄は「運転士はいないが、乗務員が添乗する」、いわゆるドライバーレスと呼ばれる自動運転を目指している。
鉄道事業者にとって人件費は列車を運行するコストの大半を占める。だから、無人運転が実現できれば大幅なコストダウンが見込めるが、乗務員を添乗させると人員削減の効果は限定的になる。
それでも人員削減を拙速に進められない。例えば、ラッシュ時の山手線は、1列車に1000人以上が乗車している。多くの乗客が乗る列車が不測の事態に直面した場合、大きな混乱が予想される。混乱がさらなる大きな被害を生むといった二次被害まで想定すると、輸送人員が多い路線で完全な無人運転はリスクが高い。
そうした混乱を防ぐためには、乗務員の添乗がもっとも有効な手段となる。大都市圏の鉄道事業者が自動運転を目指しながらも無人運転まで踏み込まないのは、万一の事態に備えているからだ。
だが、運転士を一人養成するためには莫大な時間とコストがかかる。そこで自動運転が実現できれば、その費用と時間を縮減でき、それだけでも鉄道会社には大きなプラスとなる。
これまでにも鉄道各社は経営の合理化に取り組んできた。経営が厳しい地方鉄道では、2000年前後に運転士などを非正規雇用に切り替えることで合理化を図ってきた。だが、そうした非正規雇用化の弊害が強まり、鉄道業界は人手不足が深刻化した。運転士が集まりにくくなり、それが列車を運行できない理由にもなっている。
運転士や車掌などの非正規雇用化は鉄道会社の存亡にもかかわる事態に発展したため、今から振り返ると悪手だったと言わざるを得ない。そうした反省を生かし、最近は鉄道従事者の正規雇用化をはじめとした処遇改善が急速に進められているが、それでも運転士は足りていない。