ヨーロッパの神殿を想起させるロックシェッドも

 筆者は地元バス会社が管理する「SLバス」のツアーの講師で冬にも訪問した経験があるが(大型バスはトンネルの車高制限で入れない)、しんとした厳冬期の風景は墨絵を思わせ、天候が許せば、東南アジアなど雪を初めて見るインバウンドの個人客にある程度人数を限定して案内したらどうか、と考える。

 例えば、敦賀の冬の味覚「せいこ蟹」や「今庄そば」と組み合わせ、地域の観光協会や旅行会社がジャンボタクシー利用などで販売すれば、高額商品になりうるのでは、と思う。

 その場合、歴史ある土木遺産群を説明できるガイドの存在が必要だが、長浜市、敦賀市、南越前町の3市町が連携して観光ボランティアガイドの育成に継続的に力を注いでいることは今後へ向けて誠に望ましいことだ。

 山中トンネル周辺には、列車を落石や落雪から守ってきたPC(プレストレスト)コンクリート製ロックシェッドも道路上に残る。ヨーロッパの神殿を想起させるその中を通り抜けると、25‰の急勾配を下って、やがて今庄のまちに着く。今庄の市街地の先には旧北陸線トンネル群の福井側の入口・湯尾トンネル(368m)も道路転用されて現役である。

山中ロックシェッド
山中信号場(スイッチバック)から今庄へ下る本線に設けられた落石・落雪避けのロックシェッド。中を歩いてみると神殿のようにも感じる
冬には静寂の中、煉瓦の山中トンネル上部に氷柱が張り、特別感あふれる景観が見られる。豪雪地域なので天候次第だが、地元のタクシーなどで訪問する方法がある

 北陸新幹線開通で令和の新北陸トンネル(1万9760m)が誕生し、第3セクターのハピラインふくいの列車が通る昭和の北陸トンネル(1万3870m)、そして今回通ってきた明治の旧北陸線トンネル群と、この地には3世代の“北陸トンネル”が現存する。

 今なお地域の人々にとって大切な公道として活用されている明治の鉄道廃線トンネル群は大切に整備され、ある種荘厳な美しさも感じる。

 この地域ならではの“明治の生きた近代土木遺産群”を訪ねてみてはいかがだろうか。

取材時は晩秋で、石造りのトンネルに紅葉が色を添えていた

【参考情報】
現在、旧北陸線トンネル群の「トンネルカード」が数量限定で配布されている。配布場所の情報はこちら

【協力(資料、写真等)】
長浜市・敦賀市・南越前町観光連携協議会
増田正樹氏(観光ボランティアガイドつるが)

【旧北陸線トンネル群の主なトンネルへのアクセス】
柳ケ瀬トンネル 長浜市中心部から車で約40分
小刀根トンネル 敦賀市中心部から車で約30分
樫曲トンネル  敦賀市中心部から車で約10分
山中トンネル  敦賀市中心部から車で約30分、もしくは今庄駅から車で約15分
湯尾トンネル  今庄駅から車で約10分

【旧北陸線トンネル群 インスタグラム】
トンネルさんぽ」 

【ホームページ】
日本遺産ポータルサイト「海を越えた鉄道~世界へつながる鉄路のキセキ~」(長浜市・敦賀市・南越前町)
福滋県境 鉄道遺産回廊 周遊ガイドブック