要するに、ネクスペリアの半導体は金額的には安価であるものの、“個数ベースでは圧倒的に多く使われている”ため、それがクルマ用ユニットのボトルネックになっていたのである。

 今回、この大量のディスクリート半導体の供給が止まったことにより、クルマの主要ユニットの生産が滞り、結果としてクルマの最終組み立てができなくなったというわけだ。

 半導体不足が原因でクルマが製造できなくなる──こうした現象は、これまでにも何度も繰り返し目にしてきた。

 そこで本稿では、半導体不足によって自動車の生産が停止した過去の事例を取り上げるとともに、なぜクルマメーカーが同じ過ちを繰り返すのかを論じたい。結論を先に述べれば、その最大の要因は、依然として「ジャスト・イン・タイム」の生産方式に固執している点にある。

 この生産方式を改めない限り、半導体不足が発生するたびに自動車生産が止まる──その構造は今後も変わらないだろう。

東日本大震災でトヨタのプリウスの生産が停止

 半導体不足によって自動車の生産が停止する──その現象を筆者が初めて目の当たりにしたのは、2011年3月11日の東日本大震災でルネサス那珂工場が被災したときである。

 大地震の直撃を受けた那珂工場のクリーンルームでは、多数の製造装置が転倒し、壁には深い亀裂が走るなど、壊滅的な被害が生じた。まさに工場全体が“ズタズタ”の状態に陥ったのである。

 この那珂工場では車載用半導体MCU(マイコン)が製造されていたため、国内外の自動車メーカーの生産ラインは軒並み停止した。とりわけ影響が大きかったのがトヨタ自動車である。当時、トヨタの主力であったハイブリッドカー「プリウス」に搭載されるマイコンの大半が那珂工場に集中しており、その結果、プリウスの生産は完全にストップした。