1年近くかかるライン認定
車載半導体は、民生用電子機器などに比べて、信頼性基準が桁違いに厳しい。それだけではない。車載用マイコンの製造工程が確定すると、その工程で安定して量産できるかどうかを確認するために、半年から1年ほどの試験期間を設ける。この期間中は、装置の変更はもちろん、プロセス条件の微調整すら一切許されない。
こうして安定生産が確認された後、そのマイコンはデンソーを経由してトヨタ自動車に納入され、プリウスなどの車両に搭載される。この「安定生産の確認」プロセスを、「ライン認定」と呼ぶ。
つまり、トヨタやデンソーが被災した那珂工場での生産再開に固執した理由は、他工場で代替生産を行うよりも、すでにライン認定が済んでいる那珂工場を復旧させた方が、早期にマイコン供給を再開できると判断したからである(もっとも、地震でズタズタになった工場を再稼働させる場合でも、本来は再認定が必要だと思うが、自動車メーカーはそうは考えなかったようだ)。
このように、車載半導体を実際に車両へ搭載するためには、半年から1年を要する厳格な「ライン認定」を受けなければならない。この点からも明らかなように、ネクスペリアの半導体についても、たとえ後工程とはいえ、他工場に生産を移管する場合には再認定に時間を要する。また、他の半導体メーカーに代替生産を委託するとなれば、認定にはさらに長い期間が必要になるだろう。ネクスペリアの半導体出荷停止が大問題になったのも、他社が容易に代替生産できないという事情があったからである。
2021年の正月明けに日米欧でクルマ生産が停止
車載半導体不足によって自動車の生産が停止した“2度目”の事例は、2021年の年明け、コロナ禍の真っただ中で発生した。クルマを国家の基幹産業とする日本、米国、ドイツにおいて、主要メーカーの生産ラインが相次いで停止したのである。
当時、世界的に不足していたのは、28nmというテクノロジーノードで製造される車載用半導体であった。しかし、トヨタをはじめとする自動車メーカーは、なぜ28nmの車載半導体が不足するのか、その根本原因を理解できていなかった。
筆者はこの問題の背景事情を解明し、「なぜ車載半導体が不足するのか? カギ握る台湾TSMC」(2021年3月2日)として本コラムに寄稿した。その概要を以下に示す。