ハイブリッド車はガソリン車に比べて圧倒的に多くのマイコンを必要とするため、その依存度の高さが一挙に表面化したのである。

 その当時トヨタは、図4に示すように、調達リスクを減らす目的で1次サプライヤー(ティア1)への発注を3社に分散させていた。しかし、3次サプライヤーに当たる半導体メーカーに目を向けると、実態はすべてのマイコンがルネサス那珂工場に集中していたのである。

図4 2011年3月11日の東日本大震災で発覚した車載半導体の供給状況
車載半導体のMCU(マイコン)がルネサスに集中していた
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 そしてトヨタ自身も、大震災が起きるまで、自社の車載用マイコンがルネサス1社に依存していることを把握していなかった。

トヨタとデンソーは那珂工場復旧に固執した

 このとき、ルネサス那珂工場で生産していたマイコンは130nmよりもルールが緩い成熟ノードであり、プロセス技術としては枯れた領域に属していた。そのため、技術移管を行えば、ルネサスの他工場(例えば西条工場や山口工場)でも生産は十分に可能だったと、当時の那珂工場の技術者は証言している。

 ところが実際には、他工場での代替生産は実施されず、被災した那珂工場を復旧させて同工場で生産を再開するという方針が選択された。この復旧作業を支援するため、トヨタ自動車とデンソーは合計2500人規模の応援要員を現地に派遣するに至った。

 では、なぜルネサスは他工場への切り替えではなく、あえて被災した那珂工場での再開に固執したのか。その背後には、クルマ産業全体に根深く横たわる構造的な問題が存在していたのである。