APECで日中首脳会談に臨む中国の習近平国家主席。脆弱なセーフティーネットの改善が求められているが、果たして(写真:AP/アフロ)
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 台湾有事を巡る高市首相の国会答弁に対する対抗措置として、日本の水産物の輸入再開手続きの見合わせを通知した中国政府。いずれはレアアースの輸出規制もあるのではないかと不安が高まる。もっとも、貿易が外交や安全保障の交渉材料になると、中国は孤立を招く恐れもある。むしろ中国製品を外国が買わなくなるときにこそ中国経済の危機があると語るシャオユ・ユアン、ニューヨーク大学、ラトガース大学非常勤教授に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──ユアン教授は、10月に発表された中国の5カ年計画を分析されています。今回発表された5カ年計画からどのようなことが見えるのでしょうか?

シャオユ・ユアン氏(以下、ユアン):新5カ年計画は、市場における生産と供給面では野心的ですが、国民の需要を高めるという意味では、全く野心的とは言えず、ほとんど保守的とさえ言えるほどです。

 北京は「高品質な発展」と「自立」を目標に掲げ、先進製造業、AI、グリーンテクノロジー、半導体、宇宙開発にますます注力し、欧米に対する戦略的な競争力を高める必要を強く感じています。

 グローバル市場で強い優位性を持つ主要技術と、それを支えるサプライチェーンを掌握することで、これ以上、海外から翻弄されたくないという意思がうかがえます。この流れはこの数年の習近平政権の方針と変わらず、これまでの延長線上にあると言えます。

 一方で、一般市民の生活、所得、社会保障、不動産問題、若者の失業、国民生活の将来の展望といったテーマの対策に関しては、同等レベルの野心が感じられないことに懸念を持っています。国民の消費や福祉を拡大するための所得再分配に向けた大きな転換は、ほとんど何も具体的に示されませんでした。

 今の方向性で進めばますます不均衡が生じます。工場、半導体、輸出能力への投資は非常に大きい一方で、家族、年金、セーフティーネットへの投資は依然として比較的小さいということです。

 私は、この5カ年計画は大きな賭けだと思います。指導部は、ますますのハイテク化や産業化、海外からの自立に成功すれば、成長と国力は後からついてくるので、国内の社会的・経済的緊張は解消されるだろうと想定しているようです。ただ、この賭けが失敗した場合、対外摩擦を増幅させるだけでなく、多くの国内問題を未解決にしてしまう恐れがあります。

──中国政府はなぜハイテクにこれほど重点を置く必要があると考えているのでしょうか?