国民から忌み嫌われているマイナンバー(写真:Nobuyuki_Yoshikawa/イメージマート)
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(榎並 利博:行政システム株式会社 行政システム総研 顧問、蓼科情報株式会社 管理部 主任研究員)


 今年2月に開催した「日本のバカげたデジタル化を憤る高齢者の会」 が好評だったため、2025年11月21日に第2回フォーラムを開催した。この会合に参加した高齢者は大学教授、官僚、自治体職員、ITベンダー、士業などのOB。いわば、日本のデジタル化を推進し、その岩盤にぶち当たって散っていった高齢者である。

 ゆえに、「デジタル化はけしからん、デジタル化に反対!」と言っているのではない。「なぜもっと徹底的に現状の矛盾した法制度を破壊し、マイナンバーやデータを使って合理的・効率的な仕組みに再構築しないのか」と憤っているのだ。

 今から四半世紀前、彼らは「5年以内に世界最先端のIT国家を目指す」という目標を掲げた政府のe-Japan戦略(2001年1月)を支持し、政府への期待と協力を惜しまなかった。ところが、それから時を経て彼らも高齢者と呼ばれる年齢になったが、日本のデジタル化は遅々として進まず、その現状を見るに暗澹たる思いを募らせている。

 我が国は技術力が劣っているわけではない、特定の誰かが邪魔をしているわけでもない。呪い、悪霊、怨霊といった邪悪な空気が政治家、官僚、企業、国民などを飲み込み、デジタル化を歪めてこの国を奈落の底へと突き落とそうとしている。この邪悪なものを祓うため、高齢者たちが命を賭して立ち上がったのが、この憤る会である。

 経験したことのないパンデミックに襲われたかと思えば、ウクライナ戦争の勃発とそれがもたらしたインフレに苦しむ。そして猛暑の夏と気象異変、いつ起こるかわからない大震災や富士山の噴火への不安。さらに、人類が築き上げてきた平和と民主主義という価値を否定するかのごときトランプ政権が誕生する一方、人間の知能を超える生成AIが出現などなど。近年我々はこのような未知の脅威に遭遇すると同時に、我が国では人口減少がもたらす絶対的な人材の不足に直面している。

 これらの危機に対処するために、我々は従来の慣習や発想の呪縛を解いて、新たな社会に転換していかなければならない。そのために何ができるか、何をすべきか。何よりも現状を知り未来を予測し、限られた資源を効率的に使用し、危機に対処していかなければならない。

 そのために必要なものとは、言うまでもなく「情報(データ)」であり、大量の情報を迅速かつ正確に利活用する仕組みである。そのことは、専門家の間では以前から知られていた。にもかかわらず、非合理な呪いによって、その仕組みが作られず、活用されてこなかった。

 今こそ、従来の慣習や発想の呪縛を解き、新たな社会へと転換していかなくてはならない。新たな社会を支える基本理念とは「福祉国家、効率性、信頼性」である。科学的根拠(エビデンス)を踏まえた理性に基づいた思考で合理性を追求していかなくてはならない。