「ネオナチと戦う」神話が支える国内支持

マライ:そもそも、ウクライナの「ネオナチ」とは?

小泉:ウクライナ社会に極右やネオナチと呼ばれるような勢力が全くいないわけではありません。実際、2014年のマイダン革命では一部の極右勢力が暴徒化し、過激な民族主義団体と関係のある人物が暫定政権に含まれていたのは事実です。ロシアはこの時の出来事やイメージを最大限プロパガンダに利用し、「ウクライナはネオナチに乗っ取られた国家だ」と宣伝してきました。

 しかし、そうした勢力はごく一部に過ぎず、ポロシェンコ元大統領やゼレンスキー大統領政権を「ネオナチ」と評するのは無理があります。

マライ:かつてのドイツのナチスとは実態が違うと思いますが…。

小泉:ウクライナ東部では親ロシア派との戦闘が起こり、初期に約4000人の犠牲者が出ましたが、それは戦闘による被害であり、ナチスによるホロコーストとは全く異質です。

 ロシアが侵攻しなければ起きなかった犠牲でもあります。それでもプーチンは「ナチスとの再戦」という構図でロシア国民に訴え、戦争を正当化しようとしています。

「ナチスを倒した祖国防衛戦争」という物語=ナラティブはいまもロシア人にとって大きな誇りであり、「ウクライナ=ナチス」というプロパガンダは一定の効果を持つのです。