「日本記録に遅れたら何秒でも同じ。遅れるなら前にいく」
鈴木芽吹は駒大卒業後も母校を拠点に大八木弘明総監督の指導を受けている。昨季は5月の日本選手権10000mで4位(27分26秒67)に入ると、八王子ロングディスタンスで27分20秒33(当時・日本歴代5位)をマーク。今季は4月の日本選手権10000mを27分28秒82で制して、9月には東京世界陸上に出場した。
満員の国立競技場で海外選手に食らいつくも、結果は29分33秒60の20位。終盤の2000mほどで30秒以上の大差をつけられて、「本当に自分は通用しないんだなと思った」と世界との差を痛感した。
「このままではダメだ。何かを変えていかなきゃいけない」
そう感じた鈴木は10月初旬に母校である長野・佐久長聖高の練習に顔を出した。
「自分のなかで初心に戻るというか、高校ではこういうことを頑張っていたけど、そういう気持ちがなくなっているのかな、と。そういう気づきもありましたし、いろいろ変えられたかなというのはあります」
10月中旬からは約3週間の米国・アルバカーキ合宿を実施。「量をやる時期」と「質を上げていく時期」を明確に分けて、練習してきたという。加えて、補強や動き作り、スプリント・トレーニングも精力的に行った。「昨年以上に質の高い練習をやってきたので、条件が良ければ出るんじゃないかなと思いました」と大八木監督が話すほどの状態に仕上がっていた。
そして鈴木は、「日本記録に遅れたら何秒でも同じ。遅れるようなら前にいく姿勢を常に持つようにしていました」と気合も十分だった。
しかし、実際のレースは、「5000m通過がきつかった」と前半は動きが硬かった。それでもレース後半は、「カラダが温まってきた感覚があって楽になったんです」と“有言実行”のレースを展開する。
「ラスト1000mで外国人選手も『ちょっと誰か前に行けよ』みたいな感じだったので、自分が行くしかないと思いました。あまり力まずにウェーブライトの前に行けたけたので、これは『出るな!』というのはありましたね」
狙い通りの日本新記録となったが、27分05秒92というタイムに満足はしていない。
「日本にいるから27分09秒80という記録を更新するだけで注目されますが、世界基準は26分台。それが最低限なので、まだまだだなと思います。来年のアジア大会は翌年の北京世界陸上につながると思うので、今後もトラックを極めていきたいです」