文化の灯が消えず、国が戦争によって断絶していないことの象徴だ。安青錦の快挙は国家がまだ折れていないことを、世界に向けて示す役割を果たしている。
安青錦の活躍で「土俵」が重層的な意味を持つ空間に
大相撲は日本文化の象徴であり、国際的な文化交流の“装置”でもある。その中心に戦争によって人生の軌道を変えざるを得なかった外国人青年が立ち、そこで勝ち続けているという構図は国際社会にとっても意味が大きい。
安青錦の優勝はウクライナのソフトパワーの発信点であり、日本にとっては伝統文化の包容力の証明となったからだ。世界の視点では戦争や移民という由々しき問題に、文化やスポーツの明るい話題が何らかの形で解決の糸口を見出せるヒントにつながったかもしれない。土俵という円形の空間が、ここまで重層的な意味を帯びたのは久しくないだろう。
大相撲九州場所で初優勝を果たし、祝杯を手にする安青錦。右隣は師匠の安治川親方=11月23日、福岡県久留米市(写真:共同通信社)
優勝後、花道で付け人と抱き合い静かに涙を流した安青錦。付け人の号泣する姿を見て自らも“もらい泣き”した涙は努力の結晶であると同時に戦争が奪ったもの、日本が与えたもの、そのすべてを抱え込んだ21歳の魂の震えだった。大関昇進は既定路線となり、横綱もおそらく射程に入る。
しかし本当の物語は、この先にこそ重みがある。“青い目のウルフ”は角界の未来だけでなく戦火に揺れる国家の心、文化の継承、国際社会の文脈にまで影響を及ぼしながら、令和の土俵を駆け上がっていく。






