安青錦の出世曲線は、千代の富士級の異常な角度を描いている。「令和のウルフ」「青い目のウルフ」という呼称が軽く聞こえないのは今場所の内容が、かつて「昭和の大横綱」も歩んだ出世街道に値したからである。

ウクライナの人々にとって、とてつもなく大きな意味を持つ安青錦の優勝

 ウクライナ国内で安青錦の賜杯は国中で報じられ「戦火の国に差し込んだ光」と評された。

初優勝を果たし、内閣総理大臣杯を受け取る安青錦=福岡国際センター(写真:共同通信社)

 ビンニツァの相撲チームで指導したワジャ・ダイアウリ氏はこの日、日本メディアのオンライン取材に応じ、幼い頃からの姿勢の低さ、腰の粘り、そして日本で磨いた突っ張りの技術が、優勝を決定的にしたと感じていると明かしている。

 かつての仲間たちも寡黙で誰よりも集中力が高く、勝敗に対する執着が強かったヤブグシシンの原点が「今、日本の土俵で開花した」と語っている。

 戦争で疲弊した国において、こうした快挙は単なるスポーツの話題では済まされない。政治と軍事の暗い影に覆われた国民の心に、久しぶりに“前へ進むエネルギー”を与えたからだ。

 ウクライナの専門家は、安青錦の活躍を「文化の持久力の証明」とする。