誰にもわからない不思議な言葉

 ヘルン言葉は、セツとハーンの二人だけの共通語である。

 まず、ハーンが先に、日本語の単語や慣用句を覚えた。

 それらを助詞(てにをは)なし、動詞と形容詞は活用なし、文章の語順は基本的に英語式という特殊な言葉に発展させて意を伝えるようになる(小泉八雲記念館『小泉セツ ラフカディオ・ハーンの妻として生きて』)。

 たとえば、「パパサマ あなた、親切、ママに。何ぼ喜ぶ、言う、難しい」といった感じである。

 これをセツも忠実に真似て会話するようになり、晩年には込み入った法律問題なども、問題なく理解し合えたという。

 この言葉を小泉家では、ヘルン言葉と称した(以上、小泉凡『怪談四代記 八雲のいたずら』)。

 ヘルン言葉を完全に理解したのは、セツだけだったといわれる。

 セツとハーンの子どもたちですら、よく解せなかった。

 子どもたちは、「パパとママは、誰にもわからない不思議な言葉で、誰にもわからない神秘を話している」と、仲間に語ったという。