「パレスチナ人であることを誇りに思う」

 ファルシとのビデオ通話の直前に、イスラエル軍がファトマの家の近くを攻撃した直後でも、文字通り笑顔でその様子を語っている。

 その背景には何があるのか。

 1つは健全な自己肯定感である。

 パレスチナ人であることを、どう思うのか、と問われると。

「誇りに思う。なぜならパレスチナ人は特別な存在だと感じるから。私たちは強くて勇敢で、世界で貴重な存在だ。私たちは武器も爆弾も持っていない。装備も十分じゃない。それでも故郷のために闘える。抵抗できる」と即答している。

 さらにその背後を推測すれば、イスラム教を信じているというバックボーンがあるのだろう。この映画では、宗教についてほとんど語られないが、ファトマはどんな時でも、信仰の象徴といえるヒジャブを被っていた。母親の勧めで13歳から被っているという。

「あなたの髪を見たことがない」、と言われると、

「だって、今は撮影しているでしょう。私の髪を見せるわけにはいかないわ。でも、私たち2人だけで話すときなら見せてあげる」

 とファトマは笑う。

 ファトマやその家族は、ガザ地区で水道も電気も遮断され、食べ物として「動物の餌」を食べてしのぐ時さえあった。

ファトマの父親は開口一番「この戦争はいつ終わるんだ?」と訊いた ©Sepideh Farsi Reves d'Eau Productions

 そんな彼女のささやかな望みは、「チキンとひとかけのチョコを食べること」。しかし、戦争がはじまってからは、そうした望みは叶うことなく、配給される缶詰を食べ、知人の家でスマホなどの家電を充電しながら生き延びてきた。彼女がホッと一息をつけるのは、コーヒーを飲むときだけだ。

「イスラエルはこんな質素な生活さえも私たちから奪おうとしている」とファトマは憤る。