おこめ券・資料(写真:共同通信社)
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(小泉秀人:一橋大学イノベーション研究センター専任講師)

 高市早苗政権は物価高への対応として、自治体を通じたプレミアム商品券やおこめ券の配布など、生活者が日々の買い物で使える支援策を打ち出している。家計が苦しい時期に「すぐ使える」支援が届くことは、生活者にとって歓迎すべきことに映る。使い方もわかりやすく、政治的にも支持を集めやすい。

 しかし、こうした“すぐ効く対策”には、見えづらい副作用がある。経済の基本である需要と供給の関係に立ち返ると、短期的には助かる一方、中長期的にはむしろ庶民、特に低所得者や若い世代ほど負担を背負う構造が浮かび上がる。さらに皮肉なことに、恩恵は金融資産を多く持つ富裕層へと集中しやすい。

 なぜ、庶民のための支援策が、その庶民を苦しめることになるのか。その理由を丁寧に追っていきたい。

需要と供給──価格を決める“たった二つの要素”

 市場価格は「欲しいと思う人の量(需要)」と、「売られる量(供給)」で決まる。これは経済学の最初の授業で学ぶ最も基本的な原則であり、むしろ人間の行動に根ざした直感に近い。

 欲しいと思う人が増えれば、取り合いになり、同じ商品でもより高い値段で買おうとする人が増える。だから値段が上がる。売られる量が減れば、売り手は希少性を背景に価格を上げやすくなる。

 ところが政府が配ろうとしているプレミアム商品券やおこめ券は、このうちの欲しいと思う人、つまり需要を押し上げる効果がある。本来であれば、価格が上がっているから買い控えるはずの人や、毎日の食卓をお米からパンやオートミール、麺類に置き換えていた人も、商品券を使えば実質的に値引きされた感覚でお米を購入できる。

 つまり、政策によって「本来なら手を伸ばさない層」によって新たな需要が生み出されることになる。

 この点が、今回の政策の最も大きな問題点である。生活支援を目的としたはずの政策が、需要を押し上げることで、結果的に物価そのものを下げにくくしてしまう。