プレミアム商品券は“見えない値上げ”の温床になる
プレミアム商品券も同じだ。たとえば1万円で1万3000円使えるタイプの商品券は、消費者にとって魅力的であり、確かに短期的には家計の助けになる。しかし、店舗側からすれば、値下げせずとも売り上げが確保されるという意味で“値下げ圧力からの解放”につながる。
商品の値段は、市場競争があって初めて下げる必要性に迫られる。しかし、地域で大量に商品券が配られれば、いわば「需要が保証された状態」となり、値下げのインセンティブが弱まる。商品券が使える範囲は生活必需品にも広く及ぶため、特に価格競争が起きにくい。
こうした状況では、物価は下がらない。むしろ政策が需要を支えることで、価格は上がり続ける。
アメリカが経験した“給付金インフレ”の構造
需要を押し上げる政策が価格の上昇、つまりインフレを招きやすいことは、海外の実例からも読み取れる。
コロナ禍のアメリカでは、政府が大胆な現金給付や失業給付を行った。多くの家庭が「即座に使えるお金」を手にしたことで一気に消費が増えた。その半面、世界的な物流の混乱や半導体不足で供給が追いつかず、前例のないインフレが発生した。
ニューヨーク連銀の分析によれば、2021〜22年の物価上昇の約3分の2は、財政支援による需要増が原因だったと推計されている。つまり、需要を増やす政策は、インフレを招きやすく、供給制約があるときなら、なおさらということだ。
今の日本は、人手不足で16兆円の逸失利益があるとの試算も出ているほど厳しい供給制約下にある。そうした状況で商品券による需要喚起を行えば、インフレ圧力が強まるのは避けられない。
もう一つの重要なポイントは、インフレ局面で誰が得をするのかという問題だ。