賃金と物価が一緒に上がっても格差は解消されない
「賃金も上がれば問題はない」との意見もある。しかし、賃上げの効果も所得によって大きく異なる。
年収300万円の3%は9万円だが、1000万円の3%は30万円。物価上昇で生活必需品の負担が増えれば、低所得者層では賃上げ分が簡単に飲み込まれてしまう。
さらに、高所得者層は賃上げによる余剰分を投資に回し、資産価値の上昇でさらに富を増やせる。賃金上昇と資産インフレが同時に起きれば、格差は縮小どころか拡大しやすい。
つまり、たとえ「賃金と物価の好循環」が描けたとしても、低所得者を中心とした家計が“相対的に得をする”状況をつくるのは難しい。
なぜ“聞こえがいい政策”が選ばれるのか
おこめ券やプレミアム商品券のような施策は、政治的に極めて魅力的だ。即効性があり、ニュース映えし、受け取る側も「助かった」と実感しやすい。一方、供給を増やす政策は時間がかかり、効果が見えづらく、専門的でアピールしにくい。
政治家が目に見える成果を求められる構造が、こうした“わかりやすいが副作用の大きい政策”を生み続ける背景にある。しかし、最も影響を受けるのは庶民である。政策の見かけに惑わされず、経済の基本を理解することが、生活を守る上で不可欠になっている。
【参考文献】
・Quantifying the Inflationary Impact of Fiscal Stimulus under Supply Constraints Julian di Giovanni, Şebnem Kalemli-Özcan, Alvaro Silva, and Muhammed A. Yıldırım Federal Reserve Bank of New York Staff Reports, no. 1050
小泉秀人(こいずみ・ひでと)一橋大学イノベーション研究センター専任講師公共経済学・ミクロ理論が専門で、近年は運と格差をテーマに研究に取り組む。2011年アメリカ創価大学教養学部卒業、12年米エール大学経済学部修士課程修了、12〜13年イノベーション・フォー・パバティアクション研究員、13〜14年世界銀行短期コンサルタント、20年米ペンシルベニア大学ウォートン校応用学部博士後期課程修了、20年一橋大学イノベーション研究センター特任助教、21〜24年一橋大学イノベーション研究センター特任講師、23〜25年経済産業研究所(RIETI)政策エコノミスト、25年4月から現職。WEBサイト、YouTube「経済学解説チャンネル」
