ダルビッシュがベンチにいるだけで…

 とはいえ、パドレスと本人の理解を得られるかは未知数だ。リハビリ期間中の帯同は球団側が難色を示す可能性が高い。それでも侍ジャパン関係者の一人は「首脳陣の経験不足を補う意味で、ダルビッシュの存在は不可欠。彼がチームに入るだけで投手陣の空気が変わる」と話す。

パドレスのダルビッシュ有(写真:共同通信社)

 問題は、井端監督自身の“距離感”だ。前回大会で侍ジャパンを率いた栗山英樹前監督は、半年以上前から直接MLBの試合会場を訪れ、大谷らに一人ずつ出場要請を行った。大谷が花巻東から日本ハム入りし、二刀流を育てた「師」としての信頼関係があったからこそ成立したアプローチだった。

 井端監督には、その“人脈”がない。大谷との接点も薄く、首脳陣にもMLB経験者は不在だ。唯一頼れる存在は、日本ハム時代の大谷と選手、コーチとして間近で接していた金子誠ヘッドコーチしかいない。

 ちなみに今オフ、井端監督は11月下旬にも渡米して日本人メジャーリーガーたちに直接要請を行いたい構えだが、時期的にはすでに遅い。すでにWBCを主催するMLB傘下の組織団体「WBCI」には日本代表候補の予備枠に入る日本人メジャーリーガーのリストを9月の時点で提出してはいるものの、まだ返事がないという。

 渡米するか否かはWBCI側の正式なゴーサインを得てからとはいえ、関係者の間では「すでにオフ期間のタイミングでは逆効果」「そもそも選手本人と対面できる保証がない」との指摘が上がっている。

 チーム内部からも「首脳陣の経験不足、特に投手コーチ陣が不慣れで選手たちも不安を感じている」との声が漏れ伝わる。そうした背景もあって「ダルビッシュ・コーチ案」は単なる“アイデア”ではなく、もはや“最後の希望”として浮上しているのである。

 侍ジャパンの課題は明白だ。ドジャース勢3人が欠ければ、投打の柱を失う。村上、岡本まで不参加となれば攻撃力は半減。ダルビッシュの投球も望めない。経験不足の首脳陣がその穴を埋めるには、精神的支柱の存在がどうしても必要となる。

 栗山時代にあった「信頼」と「一体感」を、井端体制でどう再構築できるか。WBC連覇への道は、すでに険しい現実の中にある。