AIが見せる誤解や認識のずれは創造の賜物

 この構図は、1983年に登場したローランドのTR-909の物語と驚くほど似ています。TR-909は、当時の最先端技術を結集したドラムマシンでした。

 一部の音がアナログ、一部がデジタル。メーカーは「本物のドラムに近づける」ことを目指しましたが、結果的には中途半端な音になり、市場では不評を買いました。

 しかし、その中途半端さが後にクラブミュージックの象徴となったのです。TR-909のキックの独特な低音、ハイハットの金属的な響き、そして機械的なリズムの正確さ。

 これらが生み出すグルーヴは、生ドラムでは絶対に作れないものでした。当時のアーティストたちは、TR-909の制限や癖を逆手に取り、自分たちの新しい表現を発明していったのです。

 つまり、不完全さが創造を誘発しました。AIも同じです。

 完璧なAGIではなく、まだ間違えるAIの方が、人間の思考を刺激し、想像力を引き出します。

 AIがたまに見せる誤解、誤読、文脈のズレ。それらは一見、欠点のように思えますが、実は人間に「なぜ?」と問いを生ませる契機になります。

 AIの出した結論をそのまま受け入れるのではなく、そこに至る思考を逆算し、考え直す。

 このプロセスそのものが、人間の知的筋力を鍛えているのです。TR-909も、全く同じ構造を持っています。

 プログラムした通りに鳴らないこともあり、音のゆらぎが一定ではなかったのです。

 しかし、それがミュージシャンの感性を刺激し、もっと面白くできるはずだという創意を生み出しました。