トキと三之丞が本当の「きょうだい」に
トキと三之丞が姉弟になったところから振り返りたい。トキの実母で三之丞の母親・タエ(北川景子)は貧困の末、物乞いになった。第28回(同5日放送)からだ。それゆえトキは英語教師のレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)の女中になる話を引き受けた。
「ばけばけ」で主人公トキの夫となるレフカダ・ヘブンを演じているトミー・バストウのタキシード姿(写真:REX/アフロ)
あのころ外国人の女中は「ラシャメン」(異人の妾)と呼ばれ、酷く蔑まれていた。その代わりにトキには月20円の手当が入る。これでタエを物乞いの身から救える。
トキは前払いされた手当の半分にあたる10円を三之丞に渡す。残り半分は松野家の借金返済に当てる。
だが、格式高い武家だった雨清水家の三之丞は自尊心が強い。実姉のトキすら格下に見ている。普通に金を渡したら、受け取らない。そこでトキは三之丞の亡き父親・傅(堤真一)から、預かっていた金だとウソをついた。自分の実父である。第31回(同10日放送)だった。
小学校教師になったトキの幼なじみ・野津サワ(円井わん)の月給が4円なので、10円は相当な金額である。トキは言った。「この金で家を借り、暮らしてごしなさい」。
タエと三之丞は寺の軒下で暮らしている。このままでは冬を越せない。
ところが、三之丞は前半クライマックスの第35回に松野家を訪ねてきて、10円のうち使ってしまった1円を除く9円をトキに返そうとする。やはり自尊心が強い。
「自分の力で母を救いたい」。すると、これまで「三之丞さま」と呼び続け、敬語で接してきたトキが声を荒らげた。
「今、そげなこと言ってる場合じゃないけん!」。三之丞はトキの豹変に驚きながら、それでも「私は……」と言い返そうとする。だが、トキは聞く耳を持たない。「物乞いだよ、おばさまは。物乞い!」。三之丞を激しくなじった。
これまでの2人の関係からすると、トキの言動は無礼だが、三之丞は文句を言えなかった。気持ちが2人とも姉弟になったから言えた。聞けた。トキの怒声は続いた。
「私を見て。自分を捨てたの。自分を捨てて、家族のためにラシャメンになることを決めたの!」
トキは三之丞にも自分を捨て、金を受け取るように迫る。姉から弟への諫言だ。それでも自分でなんとかしたいなら、必死になって働き、いつか金を返せと言い放った。それまでは毎月10円渡すと告げる。
トキと三之丞は第16回(10月20日放送)で、自分たちが姉と弟であることを知った。だが、その後も態度と言葉使いは他人。この関係がずっと続くとも思われたが、どれもこれも前半クライマックスを迎えるための布石だった。