旅館の女将・ツル(池谷のぶえ)はやや混乱し、柱を突き始めた。まるで相撲の稽古だ。何も知らされていない旅館の女中・ウメ(野内まる)はきょとんとするばかり。異様に映る人たちの中に普通の人を置くのもコントの定番である。
表情と体の動きがいい髙石あかり
トキ役の髙石はコメディに向いている。表情と体の動きが抜群に良いからだ。3月まで放送されたTBS「日曜劇場 御上先生」(今年1月)では名門私立高に不正入学した高校3年生・千木良遥役で、どこか陰鬱な少女だったものの、初主演映画「ベイビーわるきゅーれ」(2021年)はコメディ。
短気で口が悪い殺し屋に扮した。静かにしていると思ったら、急に怒り出し、「なにしとんじゃー!」と叫ぶ。人もあっさり殺す。緩急の使い分けが巧みだった。
シリアスな場面での演技もうまい。第30回、トキは錦織にヘブンの女中を引き受けると伝えた。
「シジミ売りは辞めました……ヘブン先生の女中になります」。
「辞めました」から「ヘブン先生の」まで15秒もの空白があった。カメラはずっと髙石をアップで撮っていた。並みの演技力で乗り切るのは難しい。視聴者が見飽きてしまう。だが、髙石の演技は見応えがあった。
髙石が演じたトキは当初、ためらうような複雑な表情を浮かべた。好きで女中をやるわけではないからだ。次にうっすらと笑みを浮かべた。タエのためになるなら満足だという胸中が表れていた。トキはタエを助けられることが、うれしかったのである。
トキとヘブンが結ばれるのはまだ先。それでも十分面白いのだから、今後が楽しみだ。



