三之丞はトキの怒声で顔付きが変わる。フミの戒めもあり、最後は「ちょうだいします」と殊勝に言い、一度返した9円を受け取った。姉であるトキの説教を受け入れたのだ。

ほとんどなかった「長ゼリフ」をここ一番で効果的に駆使

 オーソドックスな朝ドラなら、第35回はこれで終了。たった15分しかないのだから。ところが、ふじき脚本は違った。フミがタエに対して焼き餅を焼き、トキに嫌みを言う。

「おタエさんのためならラシャメンになってもええと思った。生んでくれたおタエさんのためなら、体を売ってもええと」(フミ)

「ばけばけ」で主人公トキの母フミを演じている池脇千鶴(写真:2018 TIFF/アフロ)

 意地悪な言葉だが、フミの気持ちも分からないではない。極貧生活の中で、トキを大切にしてきた。一度も叱ったことがない。やはり、ふじき氏が前半クライマックスを意識して計算してのことだ。

 トキが「違う」とつぶやくと、フミは「どこが違うの!」と声を張り上げた。トキも負けてはいない。

「全部違う、全部違うけん! 産みとか、育てとか、そげなこと関係ない」。

 初の母娘ゲンカだった。この物語の大きなテーマの1つは家族愛だ。それを表す象徴的な第35回まで母娘ゲンカはとっておいたのだろう。