AIを活用して学生が課題を設計

 AIの限界はAI自身の能力ではなく、人間の伝え方によって決まる。この気づきこそ、AIリテラシーの本質だと思います。

 同時に、コンテストの設計にも未来の教育のヒントがありました。審査基準は「課題理解」「発想力」「おもてなし」「使いやすさ」「完成度」という5つの項目です。

 これは技術的な優劣ではなく、社会的文脈やユーザー体験まで含めた「包括的思考」を評価するものでした。

 AIを単なる道具として扱うのではなく、人と社会の間にどう位置づけるかではないでしょうか。その視点が問われていたのです。

 今後、ChatGPTのような生成AIが教育現場に本格導入されれば、学生は「課題を解く」存在から「課題を設計する」存在へと変わっていくでしょう。

 そして企業は、与えられた指示をこなす人材ではなく、自らAIを使って価値を構築する人材を求めるようになります。

 教育と産業の境界線が、AIによって融合していく時代が始まっています。私が何度もJBpressで述べてきたように、AIが知を自動化するほど、人間に求められるのは「問いを立てる力」です。

 ChatGPTが普及することで、発想の速さと実装の距離が限りなくゼロに近づいた今、問う力を持つ人だけが差異を生み出します。

 かつてプログラミングが技術だった時代は終わりました。これからは、AIとの対話を通じて自分の世界観を形にできる人が、新しい創造層になるのです。

 この日のコンテスト会場にいた学生たちは、その萌芽でした。彼らの手元にあったのは、複雑なコードでも、最新のGPU(Graphics Processing Unit=画像処理装置)でもありません。

 ただChatGPTという思考の相棒だけです。

 それでいて彼らは、社会課題に真正面から挑み、使える形にまで落とし込みました。これほどのスピードで学び、形にし、検証まで行う姿勢を、私は長く見ていません。

 ChatGPTは、AIの進化を示す技術的成果であると同時に、人間の学びの形を再発明する存在でもあります。そして、その教育的価値を最も的確に体現したのが、今回の大学発AIコンテストだったのです。

 生成AIは、知識を与えるのではなく、知識を創り出す力を引き出します。それをどう使うかは、私たち人間の問いにかかっているのです。

優勝した学生
準優勝した学生
3位の学生