組織最適化から個人最適化へ

 なぜ日本の企業は、ここまで徹底して均質化を追い求めてきたのでしょうか。

 その背景には、和をもって尊しとなすという社会的価値観が大きく影響しているように思います。

 日本企業では、チームの調和や全体最適を重視する文化が根付いており、個人の突出よりも組織全体の安定を優先してきました。

 この考え方は高度経済成長期の大量生産モデルには非常に適しており、現場の一体感や士気の高さにつながったのです。

 誰かが欠けても仕事が止まらない仕組みをつくることが理想のマネジメントとされ、マニュアルはその象徴的存在となりました。

 しかし、この文化が長年続くうちに、マニュアルは助けるための道具から縛るための規範へと変化していったのです。

 上司が部下を評価する際も、ルール通りにやっているかが指標となり、創造的な試みや挑戦はリスクと見なされるようになりました。

 結果として、社員は失敗しないための行動を優先するようになり、組織全体が保守的になっていったのです。

 前に述べた企業でも、現場のリーダーは「挑戦する人間を応援するより、ルールを守る人を評価するのが社風になってしまった。マニュアルはもともと、未熟な人を支えるためのものでした。けれど、いつの間にか、全員を未熟者扱いする仕組みになってしまったんです」と嘆いていました。

 この言葉には、多くの日本企業が直面している構造的な問題が凝縮されています。

 つまり、組織が安定を重視するあまり、成長や創造の余地を自ら狭めてしまったのです。

 ここで重要なのは、AIが単に人の代わりをするのではなく、人の責任のあり方を根本から変えつつあるという点です。