生産や開発の現場でAIの利用が進んでいるが・・・(This_is_EngineeringによるPixabayからの画像)
AIで工程を最適化したら品質が下がった
AIが日常に深く入り込む時代になりました。
経営の現場では、AIエージェントがスケジュールを自動調整し、メールの返信を下書きし、営業資料を数秒で整えることが当たり前になりつつあります。
確かにAIは、人間の手間を大幅に減らし、効率を飛躍的に高めてくれます。
しかし一方で、多くの経営者やマネジャーが口をそろえて言うのは効率が上がっても、成果が伴っていないという違和感です。
AIは作業を最適化するのが得意ですが、何のためにそれをするのかという目的意識、つまり効果を自ら考えることはまだできません。
AIが示す提案は、あくまで過去データと確率論に基づいた最も確からしい手段であり、必ずしも最も意味のある結果ではないのです。
効率とはより少ない資源で、同じ結果を出すことにほかなりません。対して効果とは目的を達成する度合い、すなわち、どれだけ望ましい結果を生んだかという指標です。
人間社会ではこの2つをバランスよく追う必要がありますが、AIは効率を最大化する方向に特化して設計されています。
例えば、AIが提案するマーケティング施策は、クリック率や閲覧数といった効率的な反応を高めることに長けています。
しかし、本当に顧客の心を動かしているか、長期的なブランド価値を育てているかという効果の側面までは測れません。
AIにとって感情や意義は、評価関数の外にあるのです。
私はある製造業の経営者から、興味深い話を聞いたことがあります。工場にAIによる工程最適化システムを導入したところ、稼働効率は20%上がった。
しかし同時に、不良品の発見率が下がり、顧客からのクレームが増えてしまったというのです。
原因は、AIがライン停止を減らすことを最優先に最適化していたため、品質チェックの工程が軽視されたことでした。