2025年10月18日、GPシリーズ、フランス大会、女子シングルで優勝した中井亜美 写真/ロイター/アフロ
(松原孝臣:ライター)
今年シニアデビューの17歳
10月にフランス大会からスタートを切ったフィギュアスケートのグランプリシリーズ。世界各地で全6戦が行われ、その上位6名は12月に名古屋で開催されるグランプリファイナルに進出する。
その第3戦、スケートカナダが10月31日から11月2日にかけて行われたが、ここでグランプリファイナルにいち早く進出を決めた選手がいる。中井亜美だ。初戦のフランス大会で優勝し、スケートカナダでは3位と表彰台に上がり、ポイントで6位以内が確定した。
帰国後、新聞各社等の取材に応じ、「2戦とも表彰台に乗れるとは思っていなかったです」と喜びを語っているが、それも自然だったかもしれない。17歳、高校2年生の中井は今シーズン、ジュニアからシニアに移行し、グランプリシリーズ出場も初めてであったのだから。
とりわけフランス大会は、グランプリデビュー戦で優勝したこともさることながら、その内容も圧巻だった。
ショートプログラム、フリー、合計点のすべてで自己ベストを大幅に更新。合計得点の227・08点は、今シーズンのグランプリシリーズに出場している選手の中では、坂本が2022年3月の世界選手権で出した236・09点に次いで2位。
ショートプログラムでは、冒頭、武器とするトリプルアクセルをはじめすべてのジャンプを成功させて1位、フリーではトリプルアクセルこそ手をついてしまい減点となったが、その後は1つもミスのない演技をみせたのである。
このときも、驚きを言葉にしている。
「正直、表彰台に乗れたらいいな、と考えていました。点数が出て1位と分かったときは、ほんとうに頭が回らなくなって。急に涙があふれてきました」
スケートカナダでは武器のトリプルアクセルがショートプログラム、フリーともに決まらなかったが、それでもショートプログラム4位からフリーで順位を上げて表彰台に上がってみせた。
ときにスポーツでは、あるシーズン、それまでになかった活躍をする選手がいる。フィギュアスケートでもそうだ。また、オリンピックシーズンに頭角を現し、それまでから一変したかのような輝きを放つ選手もいた。一方で、その輝きが続かず、短く終わることもある。
そして「勢いに乗る」ということもまたある。シニアデビューで迎えたグランプリシリーズ出場は、チャレンジャーとして挑むことができる立場だからこそ、プレッシャーなく臨むことも可能とは言える。
ただ、単なる勢いや無欲の勝利、と片付けられない資質が中井にはある。