樋口美穂子 撮影/積 紫乃
目次

(松原孝臣:ライター)

多くのトップスケーターを輩出する名古屋、グランプリ東海クラブで長年指導し、2022年に独立。その後も名古屋を拠点にしていた樋口美穂子コーチが、今年から新潟へ移動、指導を始めることになりました。前編ではきっかけやフィギュアスケートへの変わらぬ情熱、後編ではオリンピックシーズンにおける選手の指導、コーチとしての考えを伺いました。(JBpress)

●フィギュアスケートコーチ・樋口美穂子インタビュー(前編)はこちら

 オリンピックシーズンである。12月の全日本選手権まで、来年2月のミラノ・コルティナオリンピック代表を目指し選手たちは大会に臨む。

 樋口美穂子は何度もオリンピックシーズンを体験し、オリンピック代表を目標に戦う選手たちをみてきた。その経験を踏まえ、オリンピックシーズンをどう捉えているのか。

「人それぞれにたぶん違うと思うんですけど、私が思うのは、1年1年やっていて、その中で4年に1回、オリンピックのシーズンが訪れるという感覚かな」

 そしてこう続ける。

「オリンピックシーズンだからではなく、4年かけてどう進んできたか、4年後を考えて、1年目はこうする、2年目はこう、3年目はこう、と進んでいくのがいいとは思います。計画を立てて準備していくこと。なんていうのかな、今シーズンはオリンピックだからと言って、気負い過ぎるものではないし、この1年だけ頑張るというものでは思います。オリンピックってそんな簡単に降ってくるものではないので」

 長年教えてきた選手の姿も、そこには反映されているかもしれない。2018年の平昌、2022年北京、その両大会に出場した宇野昌磨を引きつつ、話した。

「昌磨自身、もちろん頭にオリンピックはありますけれど、オリンピックは一つの大会に過ぎないという考えだったので、オリンピックだから特別なことしようとか、気持ちが入り過ぎるというのはなかったですね。だから(初めて出場した)平昌のシーズンもわりと自然体で行けたと思いますし、日頃から頑張っているのだから、オリンピックがあるからといってこれ以上どう頑張るの、それよりも今まで通りやっていこうという感じでした」

 一連の話は、積み重ねの大切さを思わせる。そしておおむね、毎シーズンの成績にそれは反映されるが、ときにオリンピックシーズンに一足飛びに駆け上がる選手もいる。

「そうですね。それまではそこまでの成績じゃなくても、それこそ代表選考の対象の大会の最後の2つくらいがとてもよくて、代表をつかむことができた選手もいます」

 たしかに、シーズン前にはそれまでの実績からオリンピック代表の有力候補として目される選手たちがいて、そのうえで決して可能性が高いと思われていなくても、オリンピック代表入りを懸けて勝負し、ひっくり返すケースはある。

 ただ、その場合に懸念されることがあると言う。