しかしながら、米中交渉を見ていると、勝者は中国である。トランプが関税攻勢をかけたところで、輸入元や輸出先を変更することで打撃を回避している。そして、レアアースという強力な武器もある。
中国は、AIのDeepSeekに見られるように、先端技術産業で自立する道を選択している。10月20日から23日まで北京で開かれた4中全会(第20期中央委員会第4回全体会議)で、2026~2030年の5カ年計画が策定されたが、「高い水準の科学技術を自国で開発し、『デジタル中国』の建設を推進する」ことを決めている。
関税とポピュリズム
トランプの手法は、あらゆることに関税を武器として相手に迫り、譲歩を勝ち取ることである。そして、アメリカ第一主義を掲げ、米国民のナショナリズムを刺激して、政策への支持を調達している。まさにポピュリズムである。
その政策の結果、自由で開かれた国際貿易体制は、保護主義に道を譲り、世界経済の縮小を招いている。それは、アメリカ国民にも不利益をもたらすのであるが、ポピュリズムによって国民は目をくらまされている。
トランプが行っているのは、新しい国際秩序の構築ではなく、アメリカの国益のみをひたすら追求する破壊的政策である。G7を構成するヨーロッパもカナダも日本も、関税という自国に降りかかる火の粉を払うので精一杯であり、協力してトランプに対抗しようという動きにはなっていない。
それは、アメリカが世界一の軍事大国であり、安全保障の面でアメリカに頼らざるをえないからである。自由社会の盟主として、アメリカは、ロシアや、中国、北朝鮮などに対抗して自由な民主主義体制を守る必要がある。その役割を放棄すれば、パックス・アメリカーナは崩壊してしまう。次に来るのは、「中国による平和(パックス・シニカ)」なのであろうか。





