具体性に欠ける国の対策と「3つの指針」の中身

 ここまでヒグマ、ツキノワグマの生息状況、人身被害、道や国の対策について駆け足に見てきたが、これ以上の人身被害、農業被害を出さないための抜本対策として何が必要なのか。緊急対策と中長期的対策に分けて考えてみたい。

 今後目指す方向性について国(環境省)の「クマ保護及び管理に関する検討会」はこうまとめている。

 対策の目的は「人の生活圏とクマ類の生息域の空間的な分離」で、「ゾーニング管理」「広域的な管理」「順応的な管理」の3つの指針を示している。

 例えばゾーニング管理は、地域を①人の生活圏(市街地等)、②緩衝地帯(①と③の中間)、③保護優先地域(奥山等)において、それぞれの対策を行うという。①にはクマ類を生息させず、侵入したクマは速やかに排除。逆に③では地域個体群を安定的に維持し、クマ類にとって良好な生活環境を保全する。保護と管理を理論的に構築した考え方でこれについて異論はないだろう。

 問題は具体的な展開だ。今年、クマ類を指定管理鳥獣に指定したことで、ようやく国としても一歩踏み出したといえよう。すでに令和5年度補正予算で「クマ緊急出没対応事業」に取り組んだりしているが、まだまだ予算的には小さなものだった。

 被害防止に向けた行動について、検討会は〈これまでの個体群管理から、今後は人の生活圏への出没を未然に防止するために、人の生活圏周辺の緩衝地帯に管理強化ゾーンを設け、「環境整備」と「個体数管理」の強化が必要〉と指摘する。

 ただし、ヒグマについては推定個体数が公表されているが、ツキノワグマは未公表。都府県が把握している推定個体数を積み上げていくしかないが、都府県ごとに調査方法にばらつきがあったりして簡単には推計できない状況だという。これまで何をやってきたのだろうか。

「人の生活圏への侵入を防止」するための策としては、〈市街地や集落周辺での放任果樹、生ごみ、収穫残渣等の誘引物の管理徹底、農地への侵入を防止するための電気柵の設置、追い払い等の複合的な被害防止対策を強化〉と指摘しているが、取り立てて目新しさはない。例えば電気柵設置への国の支援はどうなるのか。もっと踏み込んだ提言が必要ではないか。

「出没時の対応」としては、〈出没した場合の関係者の連絡体制の構築や対応体制の強化が必要〉とある。これまた当たり前の話である。まだできていないということか。

 さらに、〈銃猟が禁止されている市街地等での銃器による対応が必要な場合の役割分担と指揮系統の明確化を図り、鳥獣保護管理法の改正も含めて、国が早急に対応方針を整理・周知する必要がある〉としているが、これももっともなことで、一日も早い整備、法改正が望まれる。

 緊急時には、住宅がある地域での発砲が必要になるケースが出てくるだろう。今後、一日も早い法改正などにより、その際の指揮系統の明確化と責任の所在を明らかにすると同時に、最前線で命をかけてクマと対峙するハンターに、余計な負担がかからないような最新の配慮が必要だ。