もはや対症療法的な対策だけでは何も解決しない
検討会が指摘している対策は大筋では納得のいくものばかりだが、とにかく一日も早く着手して、実現可能な対策はどんどん実施していくべきだ。
特にクマが出没した際の対応、銃器の取り扱い、地元猟友会をはじめハンターなどへの協力要請体系、妥当な報酬体系の構築については、出没件数が多発する秋に向けて一日も早く対処すべきテーマである。電気柵設置、箱わな設置、個体数管理のための調査などへの支援策の強化も急がれる。
こうした対症療法的な対策に加え、ゾーニング管理、個体数管理をはじめとする中長期的な保護・管理政策への予算確保、人材育成なども進めていなければならない。その際、最も重要なのは国民への徹底的な情報公開である。
現時点で、本州・四国におけるツキノワグマの推定個体数はどれぐらいなのか。種を安定的に維持していくための個体数はどれぐらいなのか。事実関係を明確に示したうえで、国民が納得できるような個体数管理施策を打ち出していくべきだろう。
これは理念として掲げることは簡単だが、実際に実行していくとなると大変である。自然界における個体数大増加に伴う被害が問題になっているのは、クマだけではなくシカもイノシシも一緒だ。
シカが住宅地に現れるのは日常(筆者撮影)
北海道や本州の山間部では駆除したシカの死体を放置するケースがままあり、それをクマが餌にして食肉を覚えてしまうという事態が発生している。つまり増えすぎたシカ対策の不備がクマの食生活の変化、凶暴化を招いているケースが出てきているのだ。全てリンクしているのである。
目先の出没防止、出没時の駆除対策などに加え、中長期的な共存、共生対策を構築していくのは実に骨の折れる事業であり、愛護団体などからの反発や批判が殺到する事態も考えられる。予算確保をめぐっては財務省との厄介な折衝がある。そうした苦難が見えている中で、国としてクマ対策にどれだけ本気で取り組むのか──。今まさにその姿勢が問われている。
【山田 稔(やまだ・みのる)】
ジャーナリスト。1960年長野県生まれ。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。主に経済、社会、地方関連記事を執筆している。著書は『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』『分煙社会のススメ。』など。最新刊に『60歳からの山と温泉』がある。東洋経済オンラインアワード2021ソーシャルインパクト賞受賞。




