K-POPグループ「ALLDAY PROJECT」のAnnieことムン・ソユンさんは韓国を代表する財閥の令嬢でもある(9月25日撮影、写真:ロイター)
相続税が約1兆2000億円に
韓国では、財閥のニュースは芸能ゴシップと並ぶ国民的関心事である。
「誰が相続した」「どの令嬢が留学先で何をしている」といった話題は、ネット掲示板やSNSを賑わせ、テレビニュースでも取り上げられる。
サムスン、SK、CJ、新世界――これらの巨大財閥は、経済を動かすだけでなく、文化や世論までも左右する存在だ。
2025年、そうした「韓国の雲の上の存在」たちの動向が、これまでになく多方面で注目を集めている。
その舞台は、遺産相続から兵役、そしてK-POPの世界へと広がっている。
2020年10月、サムスン電子の李健熙(イ・ゴンヒ)元会長が他界した。
韓国経済の象徴とも言えるその死は、一族にとっても大きな節目だった。
韓国では相続税率が最高50%に達し、世界でも有数の高さを誇る。
李健熙氏の遺産にはサムスン電子をはじめとする系列企業の株式、美術品、そして邸宅が含まれ、その課税額は約12兆ウォン(日本円で約1兆2000億円)――韓国史上最大規模の相続税として記録された。
この巨額の税負担を賄うため、遺族は保有株式の一部を市場外で売却し、さらにソウル中心部・漢南洞にある「サムスン邸」も手放すこととなった。
白壁に囲まれたその邸宅は、長らくサムスン家の象徴とされてきたが、2024年、その門をくぐったのは全く新しい世代の富裕層――鉄鋼貿易で財をなした40代の女性CEO(最高経営責任者)だった。
「相続税のために財閥の象徴が流出した」
韓国メディアはこう見出しを打ち、国民の間では「富の再配分の象徴」として論議を呼んだ。
この出来事は、韓国社会において「財閥の富」が次の世代、次の産業構造へと移っていく象徴的な事件として記憶されている。