「NHK ONE」をPRするEテレ番組「いないいないばあっ!」のキャラクターのワンワンと黒崎めぐみ理事(写真:共同通信社)
(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者)
いきなり大規模な不具合が生じた「NHK ONE」
NHKの新しいネットサービス「NHK ONE」が2025年10月1日のローンチそうそうに、大規模な不具合やサーバーエラーを起こして混乱と注目を集めている。
◎「NHK ONE」移行エラーは「Gmailにスパム認定されていた可能性」 徐々に解消か - ITmedia NEWS
NHKは10月2日、同日正午までに不具合が解消したと発表した。新しいドメインから大量のメールを送信したため、Gmailなどにスパムと判定された可能性があると説明している。
移行期間すら設けられず、10月1日に一斉に旧サービスを終了して新サービスに切り替えたことは、多くの視聴者から「不安的中」「どこがスムーズなのか」といった批判を浴びている。
NHKのアプリといえば、2020年に試験配信が始まったNHKの常時同時配信、見逃し配信アプリ「NHKプラス」が相当程度定着していた。2024年度末時点での登録数は約618万件に達し着実に増加を続けていた(NHK「日本放送協会令和6年度業務報告書」)。
今回のNHK ONEは、このNHKプラスをリセットして、新しいアプリへの登録移行を目指したものである。Gmailなどで会員登録を試みたユーザーに認証コードが届かず、登録できない問題が発生した。電話応対窓口には多くの苦情や問い合わせが殺到し、電話がつながりにくくなっている状況に陥ったようだ。
なぜ、このような事態になってしまったのか。
改正放送法の施行期日だからだ。2024年5月に成立した改正放送法が2025年10月1日に施行され、NHKのインターネット活用業務が従来のテレビ放送と並んだ「必須業務」とされることになった。
NHKの言葉を借りれば、「インターネットでも、しっかりと公共的役割を果たしていく重い責任を担う」ことになったのである(NHK「改正放送法の成立について」から引用)。
従前、NHKにおいては、インターネット活用業務はあくまで放送が必須業務とされていたことから、放送の理解増進等を目的とする補完的な業務と位置づけられ、「インターネット活用業務実施基準」を設け、有識者会議を設け、妥当性を随時検討させながら実施し、予算上の制限も200億円に定められていた。
なぜこのような制約が設けられていたのかというと、あくまで放送の補完的な情報であるので、受信料支払い者とそうでない者のあいだの公平性等を重要視したためと考えられている。改正法では「放送とネットの受信契約は公平」と定め、受信料を支払っておらずネットでNHKのコンテンツを見たい人には新たに受信契約をしてもらう仕組みとなった。
もうひとつの重要な要素は、日本新聞協会と日本民間放送連盟という利益団体の影響である。両者は長く、NHKを目の敵にしてきた。いわく、NHKは肥大化し続けていて、民業を圧迫しているというのである。
民放連は「NHKがネットに進出することで、他のメディアの存在が脅かされることになれば、情報空間全体としてプラスにならず本末転倒」と主張し、公正競争を阻害しないために「ネットオリジナルコンテンツの制作・配信はしない」「広告収入を得ない」「予算に厳格な歯止めを設ける」などの取り組みが最低限必要であるとの見解を述べてきた。
読者諸兄姉はどう受け止めるだろうか。