時事通信社(写真:西村尚己/アフロ)
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(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者)

あくまで「雑談」だったと解釈もできる

 日本テレビのネット配信動画が炎上していることはご存知だろうか。

「支持率下げてやる」報道陣の一部の声が生配信で拡散か、自民・高市早苗総裁の取材待機中

 注意すべきは、「炎上」していたのは日本テレビの配信動画であって、日本テレビ関係者の声かどうかはわからなかったという点だ。状況からマスコミ関係者であることはほぼ間違いなかったが、所属社は不明であった。

 炎上から2日後の10月9日、時事通信社が映像センター写真部所属の男性カメラマンの発言であることを確認し、厳重注意の処分としたことを発表した。同社の藤野清光取締役編集局長は、雑談での発言とはいえ、報道の公正性、中立性に疑念を抱かせる結果を招いたとして謝罪している。

本社カメラマンを厳重注意 「支持率下げてやる」発言―時事通信社:時事ドットコム 

 概要はこうだ。

 約25年の歴史をもち、盤石な日本政治の基調と思われてきた自公連立だが、ここに来て相当揺らぎ、暗雲が漂い始めている。1999年に自由民主党と公明党が連立政権を組んで以来、四半世紀にわたって維持されてきたこの政治的枠組みが、今、大きな岐路に立たされている。

 その自公連立に関連して、高市自民党新総裁と公明党代表が10月7日に会談を持った。高市早苗氏は10月4日、石破茂首相の退陣表明に伴う総裁選挙で選出された。しかし、保守的な政治スタンスで知られる高市氏と連立を組む公明党の間には大きなギャップがあり、公明党は連立のあり方も含めて強い懸念を表明している。

 報道陣は1時間ほど待たされていたようだ。それに苛立ったのか、前掲記事に記されているような、まるでメディアが政局に積極介入しているようにも受け取られかねない「雑談」が交わされてしまったというのが当日の経緯だ。そして「支持率下げてやる」「支持率が下がるような写真しか出さねえぞ」という発言が、日本テレビのYouTubeチャンネルのライブ配信で拾われてしまった。

 それを受けてネットでは、「やはりマスコミは信頼できない」「放送の不偏不党性はどうなっているのか」といった書き込みが多くなされ大炎上した。

 炎上は単なるネット上の騒ぎにとどまらなかった。前述の記事は産経新聞のオンライン版だが、他のマスコミなどでも記事が書かれ、自民党の鈴木貴子広報本部長をはじめ、政治家がSNSアカウントなどでも言及する騒ぎになっている。

 念の為だが、ここで行いたいのは糾弾ではない。

 実際、発言と当該通信社の記事などコンテンツのアウトプット上の相関関係、因果関係ははっきりしない。要するに、発言のようなコンテンツが媒体を通じて実際に流通したかは現状よくわかっていないままである。

 同時に、高市総裁がこの件を通じて、直接的な被害を受けたかもよくわかっていない。現場の一カメラマンが写真の選定や記事の論調を直接決定する権限を持つわけではないからだ。

 褒められたことではないが、職場で愚痴のひとつぐらい交わしたくなる気持ちもわからなくもない。

「やれやれ、長時間待機でくたびれているのに愚痴のひとつもいえないのか」「士気を高めていただけ」などいろいろな言い分もあるだろう。

 当該通信社のカメラマンは他社のカメラマンらとの雑談の中で発言したものであり、意図的に報道に影響を与えようとしたわけではないという解釈も十分可能だ。