自民党総裁選の候補者たち。総裁選のキャッチフレーズは「#変われ自民党」(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者)
「解党的出直し」を掲げながら無視し続けている声
メディアはいつも通り、自民党総裁選一色だ。だが見るべき点に乏しいというほかあるまい。なぜか。
「#変われ自民党 日本の未来を語れ!」というのが、「ポスト石破」を選択する自民党総裁選のキャッチフレーズだ。しかし、どの候補も両院における少数与党状態を受けて、軒並み持論を封印している。
都合の良さそうな野党の顔色をうかがい、最近の主張にリップサービスし、派閥の重鎮詣でをし、裏金議員については推薦人から外し、極力言及を避けるのみならず、「適材適所」「地元選出の重み」などと肯定すらするようになったと報じられている。
2025年7月の参院選で自民党が大敗し、参議院で与党が過半数を失う「ねじれ国会」状態となって以降、自民党は野党との協調を模索せざるを得ない状況に陥った。
その結果、総裁選においても、候補者たちは野党の政策に歩み寄る姿勢を見せ始めている。憲法改正や防衛費増額といった従来の主張をトーンダウンさせ、野党が重視する社会保障の充実や格差是正などを前面に押し出すようになった。
◎総裁候補、「裏金」起用で足並み 財政政策、高市氏が独自色―自民:時事ドットコム
「解党的出直し」を強調したはずの小泉進次郎氏に至っては、同じ口で、裏金議員らに対して、「一生活躍の機会がないのか」などと述べているというから呆れる。
小泉氏は立候補表明の際、「自民党を立て直す」と宣言し、世代交代と党改革を前面に打ち出していた。しかし、実際の発言を見ると、裏金問題に関与した議員の処遇について明確な線引きを避け、むしろ復権の道を用意することを示唆するような発言を残している。
◎小泉氏、裏金議員起用に含み 「一生活躍の機会ないのか」―自民総裁選:時事ドットコム
◎自民総裁選 小泉農相 立候補を正式表明「自民党を立て直す」 | NHK
そればかりか、自民党が参院選総括報告書を公開したサイトでも見出しに取られている「解党的出直し」というフレーズすら、小泉氏が初めて立候補した16年前、自民党が下野することになる2009年衆院選のときに使ったフレーズを使い回しているだけなのだという指摘もある。
当時も自民党は政権交代の危機に直面し、小泉氏は「解党的出直し」を掲げたが、結果的に民主党に政権を明け渡すこととなった。
自民党は件の総括報告書を以下のように述べて締めくくっている。
党自体も常に時代に適した変革を遂げていかなければならない。今回、国民から突きつけられた「現状からの脱却」という至上命題を真摯に受け止め、わが党は党を一から作り直す覚悟で解党的出直しに取り組み、再び国民に信頼され負託に応えられる真の国民政党に生まれ変わることをここに誓う。(自民党『第27回参議院議員通常選挙総括委員会 報告書』p.12から引用)
ここでいうところの「国民から突きつけられた『現状からの脱却』」の含意が政治とカネにあることを、自民党、それから支持層はこの間、ひたすら無視し続けている。