辞意を表明する石破首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
(渡辺 喜美:元金融担当相、元みんなの党代表)
「いつ辞めてもいい」と言っていた石破さんが…
「歳は流れる水の如く去りて返らず 人は草木に似て春栄を争う」
為 渡辺美智雄氏
越山 田中角栄
田中角栄氏がしたためた色紙(筆者撮影)
これは木戸孝允の自作の漢詩を田中角さんがしたためて私の父に贈ってくれた色紙である。「歳月は流水のように二度と帰ってこない。人々は春の草木が美しさを争うように、己の私利私欲ばかりを願いし、出世争いに走っている」という意味だと言う。
一生涯、権力抗争に明け暮れていた印象がある角栄氏の、カタルシスを感じないだろうか?
もともと石破さんは選挙に出る時、田中角さんから頼まれ、渡辺派(政策集団「温知会」)預かりとなった。
◎「石破のせがれ預かってくれんかね。頼むよ」電話口で響いた田中角栄のダミ声…“緊縮派”の宰相・石破茂誕生の瞬間(JBpress)
その時の電話の様子を目白の田中邸で聞いていた石破さんは、ミッチー(渡辺美智雄氏)が「角さんのところから預かるのは不良品が多いからな」とまぜっ返した、と語っている(石破茂「保守政治家」)。
毎年2回父の墓参りに来られる伊吹文明先生の勧めがあったのだと思うが、今年1月、石破さんは「美智雄先生のお写真でも良いからお参りしたい」と言って都内に住んでいる私の母の元を訪れた。
当時、石破さんは総理在任100日を超え、「もういつ辞めてもいいと思っているんです」と言っていた。
ところが、いつしか「絶対辞めない」へと心境変化。これは通常国会で日本維新の会を取り込んで2025年度本予算を通した頃からではないか。年金改革法案について立憲民主党案(元々の政府案)を飲み込んで成立させ、自信を深めた。
参議院選挙では自公過半数を割ったものの予想以上に自民が善戦し、石破おろしの党内抗争には日米関税交渉を盾にして乗り切りを図った。
岸田政権の強気の背景にバイデン大統領の強い支持があった事は知られているが、石破政権の裏にトランプ大統領がいるとは到底思えなかった。
石破さんの総理の椅子へのこだわりはカルヴァン派の信仰のように、「神の召命」、神に選ばれし者の使命感があるのかもしれない。しかし、それは一般的な日本人の美学からはかけ離れていた。
