物語好き

 セツは子どもの頃から、物語を聞くのが大好きだった。

 大人たちを見つけては、「お話してごしない(お話ししてちょうだい)」とせがみ、昔話、民話、伝説など様々な物語を聞いた。

 セツの養母・稲垣トミは、狐に化かされた話など、多くの不思議な話をセツに語っている。

 トミは、出雲大社の上官(高級神官)を務める高浜家の養女だった。

 そのためトミは、出雲神話をはじめ、霊魂や祈祷、呪いなどの説話も、セツに語ることができた。

 成長してもセツの物語好きは変わらず、20歳過ぎまで、人に物語を語って聞かせるように求め続けたという。

 このように、セツは数々の物語を聞いて育った。

 物語を聞くことにより、「語り部」としての素養も自然に蓄積されていく。

 セツの語り部としての才は、未来の夫を歓喜させることになるのだが、それはまだまだ先の話である。