「時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010」国立新美術館 2025年 展示風景。柳幸典《ザ ワールド フラッグ アント ファーム 1991―アジア》1991年 広島市現代美術館
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(ライター、構成作家:川岸 徹)

1989年から2010年までの約20年間に生まれた日本の美術表現を俯瞰する展覧会「時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010」が国立新美術館で開幕した。

昭和から平成へ、時代の転換点となった1989年

 日本と世界が大きく動いた1989年。海外では11月にベルリンの壁が崩壊。翌月にはアメリカ・ブッシュ大統領とソ連・ゴルバチョフ書記長の首脳会談、通称「マルタ会談」が行われ、両国が米ソ冷戦の終結を宣言。世界は新たなグローバリゼーションの道を模索し始めた。

 一方、日本では昭和天皇が崩御され、元号が「昭和」から「平成」へと改元。バブル景気は拡大し続け、同年12月には日経平均株価が当時の史上最高値となる3万8915円を記録した。消費税が導入されたのもこの年のことである。

 そうした時代が大きく変わる節目の年となった1989年を基点に、東日本大震災が起こる前年の2010年までをひとつの時代ととらえ、約20年間の現代アートシーンの動向を俯瞰する展覧会が「時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010」だ。

 この展覧会は国立新美術館の単独企画ではなく、アジア地域におけるパートナー美術館の香港「M+」との協働キュレーションによって構成。M+アーティスティック・ディレクターのドリアン・チョンと、M+ビジュアル・アート部門キュレーターのイザベラ・タムがキュレーションに加わることで、日本側からの視点だけではなく、海外からの視点を含めて日本の現代アートを多層的に読み解くことができる。

従来のアートの概念を変える作品群

 では、1989年から2010年までの日本では、どのような美術が生まれたのだろうか。1989年は、86年12月から91年2月まで続いたとされるバブル景気の只中。日本は国際的な存在感を強め、海外の人々は日本のアートにも注目した。日本の現代アートをテーマにした美術展が多数開催され、日本の若手作家がイタリアのベネチア・ビエンナーレやドイツのドクメンタなどに参加するケースも目立つようになった。

 その一方で、海外のアーティストの来日も相次いでいる。自身の作品を紹介するだけではなく、日本に住み、あるいは滞在し、制作の拠点としたアーティストも多い。本展では「日本で生まれた美術表現」とタイトルが付いているが、「日本人による美術」だけではない。「海外作家による日本で生まれた美術作品」も数多く紹介されている。