スマホ製造の脱中国は簡単ではない(写真:AP/アフロ)
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 私たちの生活に欠かすことのできないスマートフォン。さまざまなサービスや料金体系があり、契約は複雑だ。私たちはスマホに何を求め、料金をどう理解したらいいのか。『スマホはどこへ向かうのか? 41の視点で読み解くスマホの現在と未来』(星海社新書)を上梓したITジャーナリストの西田宗千佳氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──スマホの値段はどんどん上がっているのに、端末自体はほぼ無料で手に入れられるプランもあると書かれています。スマホの販売価格やサービスの料金設定は、どのように決められているのでしょうか?

西田宗千佳氏(以下、西田):これは今と昔でかなり状況が変わりました。昔は、携帯電話の料金から、携帯電話端末の料金を値引きできました。「この契約をしていただけるなら、このスマホはゼロ円で手に入ります」という契約がわりと多かったのです。

 そのような購入と契約の形は他の国ではまだ見られるのですが、日本の場合には、その契約をする人としない人の間で不公平が生じると考えられるようになり、法改正によって、携帯電話端末と携帯電話料金は混ぜてはならないというルールになりました。

 ただ、これは建て付け上の話で、結果的に現在どのような契約になっているかというと、ある携帯電話を購入して契約する場合、例えば端末の料金を3年間の分割払いプランにして、2年間使ってから(あるいは1年間使ってから)端末を返却してくれたら、残りの端末代は払わなくていいという契約になっています。こうすると、販売店は新しい機種に切り替えるという前提を確保しながら、安く売ることができます。

 携帯電話の契約を取った販売店は、携帯電話事業者からインセンティブを受け取ります。こうした売り方のテクニックを駆使して、販売店が仕入れた端末を独自に割引して売っているのです。

 新しいスマホが発売され、今のスマホがやがて安くなることを前提にして値引き価格を決めている。ただ、これはルール上は微妙です。前述のように、契約料と端末料を混ぜてはならないわけですから。

 とはいえ、スマホが高いのはどこの国も事情は同じで、消費者が端末代を全額払う仕組みの国はそう多くはありません。各国の事業者や販売店は、安く売るためにさまざまなテクニックを駆使しています。まるで自動車を買う時の契約と同じような状況になっている、と言えると思います。

──菅義偉政権時代に携帯電話の料金を下げるという方針に変わりました。結果として影響はあったのでしょうか。

西田:影響はありましたが、マイナスのインパクトだったと思います。日本の携帯電話の料金がそもそも高かったかというと、通信速度などさまざまな条件を見ていくと決して高いとは言えませんでした。

 ただ、いろいろな要素があり、どうしても実際に高くなってしまうのも事実です。そこで、データの使用量に応じて安いプランを提供するという形で、事業者は菅政権の要求に応えました。つまり、通信量を減らしたのです。

 多くの人が困らない通信の量(20~30ギガバイト)を目安に料金設定を組んだのですが、その後、皆がWi-Fiのない環境で長時間、YouTubeなどを視聴するようになり、当初想定していた通信量では足りない状況になってしまいました。そうすると、結局より高額な使い放題プランに移行します。

 携帯電話事業者も経営が厳しくなり、人件費や研究開発費にお金が割けなくなってきた事情もあります。ですから、結果的に事業者たちは安いプランを用意しつつ、全体としては値上げの傾向になっています。