校長の方針一つで学校は大きく変わるが…(写真:hanafujikan/イメージマート)
前編では、代替教員がいない理由や学校を去っていく育休明けの女性教員、年功序列の硬直した人事制度など、教員を取り巻く職場環境の課題について聞いた。
後編では、校長次第で学校は変わるのか、時代に合わない非効率な学校の慣習、氷河期世代の親の時代と変わった入試制度などについて、庄子寛之氏(ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター 主席研究員)に話を聞いた。(聞き手:篠原匡、編集者・ジャーナリスト)
【前編】55歳で校長になった定年間際の人材に学校改革は可能か?公教育に求められる優秀な人材の早期抜擢
挑戦したい教員が直面する「校長ガチャ」
庄子寛之氏(以下、庄子):公務員の特徴の一つは退職金の額が多いことだと思います。東京都の校長は、条件などはありますが退職金は2500万円以上になります。
──高額ですね。
庄子:でも、もし自分が校長を務めている間に不祥事が起きるとこの退職金がカットされることもあります。
最初は校長としてこういう学校にしたいというビジョンを持っていても、初めての校長だから1校目ではなかなかうまくいかないことも往々にしてあります。じゃあ2校目で実現したいとか、新しいことに挑戦したいとはなかなかならないんですね。
そこまでくると、もう何も変わらなくてもいいから、とにかく無難に教員人生を終えたいという心境になるものです。私だって退職金がちらついていたら、最後まで何もなく退職したいと思うと思います。挑戦より安全をとってしまう校長先生の気持ちはとてもよくわかります。
そうすると、現場の先生方が「○○をやってみたいです」と校長に提案しても、「いや、それはちょっと……。児童全員に平等なの?」とか、いろいろな理由をつけてやらせないように仕向けてしまう。平等や公平をチラつかされると、なかなか挑戦できない。学校ってそういう場なんです。
校長が「何もやらないこと=安全である」という姿勢で守りに入ると、こんな授業をしたい、こんなチャレンジをしたいという意欲ある30代、40代の教員がやりたいことを求めて教員をやめていってしまうんですよね。「何でもやってみましょう」という校長と、「なるべく何もしないでほしい」という事なかれ主義の校長と、校長の当たりハズレはかなりあると思います。
──庄子さんが現役の教員だったときの校長先生はどちらのタイプでしたか?
庄子:私は校長に恵まれたと思います。
2020年、コロナ禍の始まりの頃、海外の学校ではすでにオンラインで授業をしていると知って、このまま何もアクションを起こさないわけにはいかないと思いました。
そこでいろいろ調べて、「オンライン朝の会」を日本全国でもかなり早い段階で行うことができました。Zoomを使っているので、保護者のパソコンやスマホを使えば、日本全国の学校でできたはずです。でも、許可してもらえない学校が多かった。そういう意味でも大変恵まれたと思います。