年功序列など硬直した人事制度も教育現場の課題になっている(写真:mapo/イメージマート)
目次

 民間企業では長時間労働の抑制や在宅勤務の拡大、産休・育休制度の充実など、働き方も大きく変わってきた。その中でいまだ旧態依然とした職場なのが学校だ。少しずつ変わり始めてはいるが、長時間労働と倍率が下がる一方の採用試験、人材不足に伴って質は低下しており、育休明けの女性教員たちと意欲が報われない教員が学校を去っている。

 制度は整ってきているものの、教員の職場環境にはその変化の波はなかなか届かず、課題は山積している。教員を取り巻く職場環境の課題と年功序列の硬直した人事制度、時代の変化と教育について庄子寛之氏(ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター主席研究員)に話を聞いた。(聞き手:篠原匡、編集者・ジャーナリスト)

──教員の仕事は長時間労働で子どもや保護者の対応も大変だ、という話はよく聞きます。実際のところはどうなのでしょうか。

庄子寛之氏(以下、庄子):学習指導要領や教科書など授業の土台になるものはありますが、小学校では教員一人の裁量が大きいので、うまく時間をマネジメントできれば、実際はそこまで忙しくありません。

 私は3年前まで小学校の教員でしたが、授業の時間を自分で自由に組み立てたり、時には授業の合間に宿題やテストの丸つけをしたりするなど、授業の進め方などは自分である程度、自由に設定できました。

 また、小学校は中学や高校に比べれば学習内容も簡単です。1年生ならひらがなを教えるだけで1学期は終わるし、かけ算を教えるツールもあります。そうしたことを考えると、中高に比べて負担は少ないと思います。中休みは子供たちと遊んでいても給料がもらえますし(笑)。ちなみに、給食中は「給食指導」にあたるので勤務時間です。

 もちろん教員によりますが、自分のしたいことができる余地はあるし、力の入れどころや手の抜きどころも調整できますので、巷間言われるほど忙しいとは私は感じていませんでした。

──それは意外ですね。てっきり忙しさに押しつぶされているのかと思っていました。

庄子:もちろん時間をうまくマネジメントできればという話で、大変なことは大変ですよ。絶対的に人が足りませんから。今の学校現場は、2人分の仕事を1人でやらなければいけない状況です。

 なぜ足りないのかというと、そもそも学校の正規の人数で回しているからです。産休、育休、病欠の代わりの人がいません。なぜそうなっているのかというと、教員のなり手がどんどん少なくなっているから。今の教員採用試験はどこの自治体でも倍率が低く、1.1倍、1.2倍という倍率もザラです。

──昔は、教員はなるのが難しい職業でした。私は1999年に社会人になりましたが、私の世代は教員採用試験に受からない人もけっこういました。

庄子:その頃が一番厳しかったと思います。小学校の教員採用試験の倍率が最も高かったのは2000年の12.5倍です。私が教員採用試験を受けた2005年も劇的に入りやすくなったと言われていましたが、約4倍の倍率がありました。ところが、2024年度(令和6年度)の東京都の教員採用倍率1.1倍です。もはや「全入」と言ってもいい状況です。

──倍率が下がると、人材の質も低下しますね。